平成21年…
ある夏の日、岐阜県内の…とある神社。

今日は夏祭りの日だ。


「いいですか。行きますよ」
白い着物、赤い帯、青いおさげの髪をしたその少女はそう言うと、人差し指をテーブルに置いたたらいに向けてクルクル回した。


たらいの中には満タンの水が入っている。



「はぁぁぁ~。」



彼女はそう唱えると、たらいの水は渦をまきながら宙を浮いた。

そして…

少女が手を広げるとその水は花を咲かせるように、霧状になる。


「おーっ。すごい!」


観衆からは感嘆の声が上がる。




彼女が手を握るとたちまちそれらは凍りつき、隣に置いた複数の「氷」と書かれたカップの中に落ちる。



「はい!かき氷の出来上がりですよー。」
「えー、今のどうやったの!」
「すごーい!」



たちまち拍手の手が上がった。


「えへへ…。」
少女は照れ臭そうに笑いながら頭をポリポリ掻いた。


彼女の名前はおきぬ。


雪女の「チカラ」を利用して、毎年のようにおきぬは
夏祭りでかき氷屋の出店を出していた。



明治・大正・昭和・平成…。
時代は駆け巡る。
時は…留まることはない。

その後世界は戦争という最大の過ちを犯し、日本は敗戦…。
それからやってきたもの………。
庶民の誰もが待ちのそんでいた…「平和」だった。


かつて恐れられていた妖魔一族も、その特殊能力が医学界などを中心に注目され、また妖魔側もそれに応じて協力したため敵対関係ではなく、今では協調路線に転じた。
妖魔たちは現在、人間界の生活に溶け込み人間として(ある者は人間に化けて)普通に生活している。
かつてのように結界を張り、全国に散在していた「山辺」と呼ばれる妖怪専属の集落も今では一部をのぞき姿を消した。





あなたの隣に住むあの人も…実は妖怪の類いかもしれない…。