「…わかったよ。お姉………。」
おきぬは目にたまった涙を拭うと消え入るような声でつぶやいた。
「おきぬ…。ありがとう」
おしんは安堵した顔を見せ、微笑んだ。
「でも、ただ…ただ一つだけ約束して。已之吉さん、おとみさん、そして健太郎くん、好子ちゃんと向こうで仲良く暮らして…。喧嘩とかしないでさ…。絶対仲良く暮らして。
約束して…。
あの子たちには…あの子たちには向こうでは辛い思い…絶対させないで。」
「…何言ってるのよ。
…当たり前でしょ。大体、家族の中で、喧嘩が絶えなかったのはあんただけよ。」
「何よ。それ…。」
おきぬは無邪気に笑う…。
「ふふふ…。」
おしんはそんなおきぬを優しく見つめていた。
…おきぬはおしんの腹に手をあてた。
青白い光がおしんを包みこむ…。
「うう…。うううう…」
おきぬは我慢しようとした。
…だが止まらない。
ボロボロおきぬの瞳から涙はこぼれ続けた…。
とりどめもなく…。
それは決して枯れることはない。
…おきぬは腹から手を離した。
おしんは俯き嗚咽するおきぬの頬を優しく撫でた。
「ダメだよ。泣いたら…。可愛い顔が台無しよ。」
クスクスとおしんは笑った。
「おきぬ。
今までありがとうね…。
それと、東京見物…一緒に行けなくなっちゃったね。…ごめんね。」
「やめてよ…。そんな事…そんなこと言わないで…。」
おきぬは震える声でつぶやいた。
「明日、家族五人で楽しんでくるから…。お土産楽しみに待っててね…。」
「…うん。
楽しみに待ってる。あたしも一緒に行きたかったな。
なんてね…。」
涙を流し声を震わせながらもおきぬは笑って見せた。
「おきぬ。ありがとうね。…本当に、本当にありがとね。」
おしんは微笑んだ。
「お姉…。おねえ……。」
おきぬは姉の手を握りしめた。
…ただひたすら強く握りしめた。
一筋の光がおしんの頬から流れ落ちていく。
いつの間にか雲が切れ、
いつもの星空…そして明るい月明かりが二人を優しく照らしていた……。


