(ひどい…。)


おきぬの目から一気に涙が流れ落ちた。





…ジョンは獣人鏃の中で最も凶暴と言われた、ヴァンパイア一族のうちの一人だった…。
その血に侵されたモノは…精神・理性が崩壊し…。


やがて化け物と化す。

牙に咬まれた時は治療法がまだあった。


…解毒剤が人間により開発されていた。

だが、性行為による治療法はない。
血が混ざり、それは完全に同化してしまうのだから…。



「なによこれ!なんで!なんで!」


その時おきぬの涙がおしんの顔に落ちた。


「おきぬ…。」


「う、うううう!」


おきぬは唇を噛み、嗚咽を押さえた。



「わかったでしょ。私、もう雪女じゃないの…。」

おしんはおきぬを見つめ、小さくつぶやいた。





「おきぬ…。
…お願い、私を殺して。」





「…え?」


「私、生きていても、ダメになっちゃう。
まだ…まだなんとか理性であれを抑えられるけどそのうち「アイツ」に支配されちゃう。もし、血が完全に侵されたら、私は人を襲う。
…化け物として。


私、人間大好きだから…。そんなことしたくない。雪女としての誇りも捨てたくないの………。」



「わ、悪い冗談よしてよ。だ、大丈夫だよ、絶対なんとかなるから…。」


おきぬは目を腫らしながらもはにかみ笑った。


「なんとかって…どうするの?」


「お医者様に、お医者様に見てもらえば…なんとか、なんとかなるよ。」


…医者にみせた所でなんともならない、そんな事はおきぬ自身もよく知っていた。



「おきぬ…。お願い。私のお願い聞いて…。」

「お医者さまから今すぐ薬もらってくるよ…。だから…だから」
「おきぬ…」

おしんはおきぬを見つめ優しく笑った。
「…ありがとうね。でも、お医者さまにみせた所でどうすることもできないことぐらい、あなた自身よく知っているはずよ…。」

「……………………。」


「ね…。だからお願い。お願いだから…私の願い聞いてくれる?」


おしんはおきぬを優しく諭した。