「…ジョンすごおい!」
トムはニコニコ笑いながら拍手をしていた。
「…手間かけさせやがって、猿が。」
「さてと、帰ろうか。長居は無用だよ。」
満足そうな顔をしたサラが踵を返した刹那、彼女は凍りついた。
「死んだ」はずのおきぬが正面からゆらゆらと歩いてきたのである…。
「なっ!」
「今ので殺ったんじゃなかったのかい!」
サラは後ずさった。
「すごいね、あのお姉さん。」
トムは相変わらず笑っている…。
ジョンのギリギリという歯軋りの音が響いた。
「てめえっ!馬鹿にしやがって!!」
ジョンは大きく右手を振りかぶり、助走をつけた。
軸足が地面を踏み割る。
風の音をたてておきぬの顔のど真ん中に勢いづいたジョンの右拳がめり込んだ。
「……………」
おきぬは両手をスッと上げ、ジョンの右腕に触れた。
「な、き、貴様!まだ…」
ビシビシビシビシ!
たちまちジョンの右腕が一気に氷に固められた。
「うわっ!腕が、腕が!俺のうでが…!」
おきぬは腕から顔を引き抜くとニッコリ笑った。
「楽しいこと…する?」
「…くっ!」
ジョンは飛び退こうとした。
だが、足が動かない…。
彼の靴はいつの間にか地面と共に凍りついていた。
「き、き、貴様あ!」
「なあに?言葉遣いの悪い異人さん?」
おきぬは子供をあやしつけるようにジョンに語りかける。
「知ってる?かちんこちんになるとね…固くなって…………。ふふふふ…」
最後まで言い終わらず彼女はジョンの右腕を引いた…。
「な、や、やめ、ぐ、ぐがーっ!」
ジョンは苦悶の声をあげた。
「…うるさいなあ。」
おきぬはボソッと呟くと、更に力強く腕を引いた…。
バキッ!
その時、彼の腕は引きちぎれた。
「う、うわ!ぎゃーっ!」
断末魔の悲鳴が響き渡る。
「あれ!とれちゃった!あはは!」
おきぬは腕を無造作に投げ捨て、そのままジョンに抱きついた。
「て、てめ…」
ベキベキベキ!
彼の靴を凍りつかせていた氷柱はたちまち彼の両足、腰までをも包み込んだ。
「!!!」
サラはただ茫然とそれを見つめていた。
「て、てめえっ!離れやがれ!」
歯を食い縛ってジョンは鬼の形相でおきぬを見下ろした…。
「やーよ♪あなた冷たくて気持ちいいから離れたくない♪」
「なめてんのか!貴様ぁぁ!」
雄叫びをあげて彼は唯一使える左腕でおきぬの頭に肘鉄を食らわそうとした。
………つもりだった。
振り上げたその瞬間、
ジョンの左腕が突如凍りついた。
おきぬはジョンから身を離す…。
ドス!
重みで彼の左腕が地面にのめり込んだ。
…足は凍りつき、左腕を曲げた状態で彼の上半身はねじ曲げられた。
「あがが…。」
ジョンは苦しそうに悶える。
「離れろって言うから離れたんだけど…。
…どうしたの?大丈夫?」
おきぬはジョンの顔を覗きこむ。
ジョンは歯を食い縛りおきぬを恨めしげに睨み付けた。
「苦しそうだね…。わかったよ。今、楽にしてあげる…。」
おきぬはそのまま駆け出し、ジョンに体当たりした。