「…そうか。」
已之吉の勤める会社の社長、吉永は肩を落とした。
「今回のことにはかなり期待をかけていたんだがね…。私も出向ければ良かったんだが…。話を聞くと谷口くんには不快な思いをさせてしまったようだね。
…すまなかった。」
「いえ、そんな。」
已之吉は両手を振って答えた。
「私の力不足です。社長…。本当に申し訳ありませんでした。」
已之吉は頭を下げた。
「…いいんだよ。今回の件は白紙に戻そう。
また新たに新規の取引先を探せばいいんだしね。
今夜は、残念会でもしようじゃないか…」
吉永は笑顔を作って見せた。
已之吉と新太郎は作業服に着替え、工場に戻った。
「先輩、今回は本当にすみませんでした。俺も頭に血が昇ってしまって」
「何を言ってるんだい…。新太郎くん、君は僕をかばおうとしてくれたじゃないか。その事にたいしてすごい感謝してるよ。」
「………先輩」
「谷口さん。」
その時、事務員の君枝が已之吉に声をかけた。
「お客様です」
「僕に?だれだい?」
「外人の方なんですが…」
「外人さん?」
誰だろう。
そう思い事務所の応接室のドアに手をかける。
「お待たせしました。」
已之吉は客人に挨拶をした。
真っ黒いコートを身に付け、色眼鏡をした赤い髪の女と、十歳位の男の子がソファーに腰をかけて座っていた。
女は笑顔を作ると已之吉に語りかけた。
「…はじめまして。谷口已之吉さん。わたくし、ショーン・サラと申します。それでこちらは私の弟のトムです。さあ、トム、彼に挨拶して。」
「こんにちは。トムです。」
「あ、どうもはじめまして。あの、ご用件はどうゆう…」
ソファーに腰かけた已之吉は彼らに問いかけた。
「ねえおじさん?花火好き?」
トムはニコニコ笑いながら已之吉に聞いた。
「え?それはどうゆう意味だい?」
「実はですね…。私たち、あなたを狩りに来たんですよ。いや、びっくりしましたよ。あなた方は名簿に載っていなかったものですから…」
そう言うとサラは眼鏡をとった。
そのとき彼女の血のような真っ赤な瞳があらわになった…。


