「東京見物?」
「うん。明後日已之吉さんがお休みとったって。
おきぬも一緒に行かない?」
既に夕方。
日が西に傾きかける頃、おきぬとおしんは夕飯の支度をしていた。
「えー。ホントに!いくいく!」
おきぬは釜戸に火を炊きながらはしゃぐ。
「でもいいの?あたしもついてって。家族水入らずで行った方が…。
あたし邪魔になるんじゃないかな…。」
「なにいってんのよ。」
おしんはおきぬを見つめて優しく笑った。
「あんたも谷口家の大切な家族の一員だよ。」
「…お姉」
ボーン・ボーン。
居間の柱時計が五時の知らせを打った。
「あの子たち、遅いわね…。」
西陽が傾き、すでに辺りは薄暗くなってきている。
ヒグラシの声がいつのまにか山間に響いていた。
「迎えに行ってこようかな。」
おしんは包丁をまな板に置いた。
「いいよいいよ。あたしが迎えに行くよ。」
「行ってくれる?悪いわね。」
「大丈夫だよ。佐々木さんちだよね。すぐ帰ってくるから!」
「うん。頼むわね。」
夕日が照らす道をおきぬは一人歩く。
「家族の一員…か。」
おきぬは小石を軽く蹴った。
「嬉しい…。」
自然におきぬから笑みがこぼれた。
周囲の風景はオレンジに染まり、ゆっくりと…そして確実に1日の終わりを告げようとしていた。
…夕暮れを知らせるカラスの鳴き声は、いつになく寂しげだった…。