「や、やめてくれ!許してくれ。」


男は土下座をして許しを乞う。

「んなこと言われてもなあ、これは俺たちの任務だしなぁ。」


そう言うと背のたかい金髪の男は彼を蹴り飛ばした。

「………早く本当の姿見せちまいなよ。」
赤い髪の女はニヤニヤ笑っていた。

「た、頼む。俺には家庭があるんだ!見逃し…」
「甘ったれた事ほざいてんじゃねーよ!」

金髪の男が繰り出した拳は彼の腹にのめり込んだ。


「ぐ、ぐがぁ…」

よだれを垂らして男はうずくまる。


「結界張ったよ!」
10歳位の子供が小走りに二人の前にやってきた。

「よし…。んじゃあ、てめえともおさらばだな。」


「た、頼む!妻と子供たちだけは助けてやってくれ!」
「ふん。…もう遅いよ。
泗宝仙を嗅がせたからね。なあに、安心しなよ。あんたもすぐに引導を渡してやるさ。」



「し、泗宝仙だと…。な、な…」



呆然と男は赤髪の女を凝視した…。

その時、彼女は手を拡げ炎を繰り出した。
…女の周りには火炎が渦巻く。

「…じゃね。バイバイ」



「てめえら。てめえらああ!」


…男は叫び三人に立ち向かっていく。

赤髪の女は手を突きだし炎を発射した。




ゴォッ!



「………………っ!」








一瞬の出来事だった。


動線と化した火流は容赦なく男を貫通、そのまま男を吹き飛ばし屋敷に突入、爆発したような轟音と共に屋敷はたちまち猛火に包まれた…。





「…ふん。日本の妖怪は大したことないね。」





赤髪の女はニヤリと笑った。

「けっ、手応えのねぇ。」


金髪の男はツバを吐いた。



「お金が手に入るんだからいいじゃん!ジョン、ふてくされちゃダメだよ。それにしても綺麗な花火だねー!」
子供はただ楽しげにはしゃぎ燃え盛る屋敷を見つめていた…。





東京府下では不可思議な火災事件が相次いで発生していた。
…一夜にして民家が焼失。しかし、近所の住民は誰もその火事に気づくことなく更に激しく燃えた割には延焼などもなく、該当したその一軒だけが焼失する。



朝になると朽ち果てた家のみが残っていた。






そしてそこの家主、家族は必ず黒焦げの焼死体となって発見された。











「変な事もあるもんだよな。」

已之吉はズリ版をみてつぶやく。
已之吉のいる印刷所は新聞の印刷を中心に活動しており、中小ながらそれなりの繁盛はしていた。
「全くねぇ、警察も外部の圧力で全く動けないというもっぱらの噂ですよ」
已之吉の後輩、新太郎は茶をすすると已之吉に顔を向けた。

「外部の圧力?なんだいそりゃ?」
「さぁ?俺にもよくわかんないんすけどぉ…」
已之吉は新太郎をちらりとみると
「なんなんだかね。変な世の中になってきたもんだよなっと…」

已之吉は大きく伸びをすると、ズリ版を椅子に置いた。


「さっ。仕事仕事!」
已之吉は一人工場に歩いていく。




「先輩、まだ休みの時間じゃないっすかぁ!」


新太郎は茶碗を机に置くと已之吉の後を追った。