おしんの言葉におきぬは苦笑した。


「本当はそのつもりだったんだけど、お姉、幸せそうだし……。家族がいるとは思わなかったんだ。
でも、人間と妖魔。血をまじわすと…
掟を破るとどうなるか…。お姉、勿論知っているよね?」


「私は…妖魔界に強制的に帰還させられる…。」
おしんは消えいるような声でつぶやいた。

提灯を持つ手がわずかながらに震えていた…。

「でもいいの。その時は私だけが罪を被るだけなんだから。巳之吉さんと子供たちが幸せならそれで…」
おしんは寂しげに笑った。

「お姉がいなくなって寂しい思いするのはあの子達だよ。そんな事言っちゃだめだよ
。それに今は法律変わったから…お姉だけじゃ済まないんだよ。だから…」

おしんは立ち止まりおきぬを見つめた。

「なに…?私だけじゃ済まないって」


おきぬは驚いたように顔をあげた。


「え…??お姉、神魔法が変わった事知らないの?」


「え…なに?どうゆうこと…」

「妖魔と人間が深い関わりになると死罪になる…。またそれに関わった人間も…」



「…な、なに?」


「………死罪になる」



「え………」


おしんは笑った。
「ま、まさかそんなこと…あるわけないじゃない。家族までそんな…おきぬ、悪い冗談やめてよ。」

「これ、徳永さんからもらったんだ。通達が来たって……。政府からの勧告書だよ。」





おきぬは三枚綴りの書類をおしんに手渡した。


それを読むおしんの表情がみるみる険しくなっていく。






「こんな、こんな………こんな話聞いてないわよ!何よ。なんなのよ!これ!」


おしんは半狂乱に叫んだ。



「……ひどいよね。政府は本気であたしたちを封じ込めるつもりみたい。」



おきぬは空を仰ぎ見ておしんに笑顔を向けた。

「でも大丈夫だよ。お姉みたいに家庭作っている人、たくさんいるじゃない?こんな支離滅裂な話、誰も賛成してないし。
反乱を恐れて当局も行動起こしてないみたい…。それにもしこれが人間にばれたらとんでもないことになるよ。
だからただの脅しだって、みんな言ってるよ。」



「ひどいよ!ひどすぎるよ!」
おしんは髪をかきむしりしゃがみこんでしまった。

「大丈夫、心配しないで…。神魔監視局に見つからなければ…ね?」



「何で、私は悪霊を退治して、政府に…人間に協力していたのに…それなのになんでなんで!」
おしんは震えながらヒステリックに叫んでいた。



「お姉、落ち着いてよ!」

おきぬは一喝した。

「山辺のみんなはお姉を応援してたよ。
ひどすぎるよ…。政府のやることは。
だからこそお姉には幸せになってほしいんだ。みんな思ってる事は一緒だよ。お姉には幸せになってほしいって。だから安心して。」


おきぬはおしんの両肩に手を添え微笑んだ。


「うん…。ごめんなさい…。ありがとう……」


おしんは震えながら涙をぬぐった…。


その時一筋の光がおきぬの前を横切った。