……そしてその日の夜。


村の寺は宴会場と化していた。

「いやぁ、本当にこの二人は美人姉妹だがや。」


「おきぬさんもほれ、酒じゃんじゃん飲みなされ。」
猟師をやっている与作は猪鍋を作り、酒屋を営む義三は酒を持ち込む。
村人全員でおきぬが訪問したことを、歓迎してくれたのだ。

宴もたけなわ…夜中になり、面々それぞれが我が家に帰っていった。







已之吉たち三人は月明かりに照らされた夜道を歩く。

已之吉はおきぬにそれまでの出来事を全て話した。
雪の日に救われたこと、そして、またの再開。


「おしんは私にとって最良の妻であり、かけがえのない女性です。出会えた事に感謝しています。」
已之吉は照れ臭そうに語る。
「…良かった。お姉は素晴らしい人に出会えたんですね…。これから幸せに暮らしていってください。」

おきぬは笑って言葉を返した…。


話しているうちに已之吉の屋敷の前に辿り着いた。




「今日は疲れたでしょう。おきぬさん、ゆっくり休んでいってください。」
已之吉は開き戸を開ける。

それまでうつむいていたおしんが口を開いた。
「あなた、おきぬに案内したい所があるの。」

「案内したい所?」


「…えぇ。赤沢のお社様のホタルをこの子に見せてあげたいと思って。」



「え、ホタル…。あたし見たい~。」
おきぬは目を輝かせた。


「それはいい。こんな田舎でも唯一の名物があるんですよ。ホタルの里と言われてる場所があって…正に乱舞している。
凄い綺麗なんですよ。案内しましょう」

「…いいわ。私が案内するから。あなた明日もお仕事でしょう?早く寝た方がいいわ。」


月明かりが照らすおしんの顔はどこか悲しげにみえた。



「そうかい。まぁ姉妹水入らずの話しもあるだろうしね…。暗いから気をつけていっておいで。早く帰ってくるんだよ。」


已之吉は優しく忠告した。

「…おきぬさん、色々ありがとうございます。子供たち、あなたになついてしまって…。」
已之吉は笑う。
「いぇ、あの子たち、凄い可愛いですよね。」
「あやとりを教わったって大喜びでした。
ありがとうございます。
いつまでもいてくださっていいので。いや、却って居てくれた方が賑やかでいい…。ゆっくりしていってください。」
已之吉は笑顔で気持ちを伝えた。


「お気持ち、有り難いです。」
おきぬは微笑んだ。


「それではお休みなさい。」

已之吉は一礼すると開き戸を閉め屋敷に入っていった。