「それじゃあ行ってくる」

「はい。…気をつけて。行ってらっしゃい。」

「おとぉちゃん行ってらっしゃい!」
好子と健太郎も玄関まで見送りに来ていた。


「おーっ。今日は二人とも早起きだなぁ!よしよし!いい子だいい子だ!」


已之吉はわしわしと二人の頭を撫でた。


「今日は早く帰ってこれるの?」
「あぁ、忙しいのも一段落したからね。
今日は五時の汽車には乗れると思うよ。」

「…良かった。」


「それじゃあね。好子、健太郎、おかあちゃんの言うことよく聞いていい子でまってるんだぞぉ。」


「うん!」

二人はにっこりうなずいた。






…已之吉の頼みを聞く形でおしんは已之吉の屋敷に留まることになりその後、結婚した。

…二人にとっての宝物ともいえる、子供も授かりおしんは幸せな生活を送っていた。
それから、已之吉は友人の頼みを聞く形で東京まで通勤し友人の父親が創業した印刷所で働くようになる。

田んぼ、畑の管理はトミとおしんの女手二人に任された。





その日の午後のこと…。




川遊びにいそしんでいた二人の子は疲れて昼寝をしていた。


「今日はからっとしていてきもちいい日だねぇ。」


トミが子供たちを見ながら笑っていた。


「よく寝てる…」



あやしつけていたおしんが子供たちをみて優しく微笑む。

青空がきもちいい、ある夏の日。
蝉がうるさいほど鳴き、縁側の風鈴は心地よい音を奏でた。



「それじゃあお母さん、私、柴を刈りに行ってきますね。」
おしんは手甲、脚絆を巻き、準備を始めた。
「あー、そうだね。もう薪なくなってきたがね…。」

「子供たち、よろしくお願いします。」
籠を背中に背負い、おしんは家を出た。



裏山に入り枝の剪定をしながら作業を続けるおしん。
里山は緑に囲われ、気持ちのいい日が入り込む。

鎌を持って作業をしていると


ガサガサ…。

後方で何やら音が聞こえた。

(何?)


後ろを振り向くが誰もいない。
(ウサギかなんかかしら?)

気を取り直して作業を続けようとすると

バキバキ!
ドシン!


目の前に何かが落ちてきた。


「キャッ!」


おしんが後ずさると…


「いたたたた…。」


尻をさすりながら白い着物を着た一人の少女が座っていた。


「おきぬ!」


たちまち顔がほころびおしんは少女に駆け寄る。


「あ、お姉。久しぶり」


尻をさすりながらもおきぬは苦笑しておしんを見つめた。

「何やってんのよ。あんた。」



「木の上から颯爽と登場しようとしたんだけどさ、枝が折れちゃってさ。
はは…。」

「あんたって子は、相変わらずね。」


おしんは笑いながらおきぬの手をひいた。


それは十年ぶりの姉妹の再開だった…。