「あれーっ!おっかしいなぁ!」


おきぬはすっとんきょうな声をあげた。




彼女が出稼ぎにでて十年目。





ようやく自分の家に辿り着いたものの、我が家はもぬけの殻であった…。



彼女は極度の方向音痴だ。


出稼ぎに出て東京に行くはずが、なぜか真逆の甲斐の甲府にたどり着いていた。



急いで東京に行こうとするもなぜか通りすぎ…日光へ。
そして三度目の正直でようやく東京に辿り着くも既に目当ての仕事は終わっていたのだった…。





商屋・的屋・旅籠・渡し舟の管理人代行・傘屋・氷屋…。





旅の途中、要所要所で働きながら我が家を目指した。

そして十年目にしてようやく帰ってきたのである。





「お姉ーっ。おーぃ!おーぃ!」


ギョロリとした目をした毛むくじゃらの男がおきぬに声をかけた。




妖怪の隣人「徳永」である。


「おきぬちゃん、おかえり…。もう、おしんちゃんはここにはいないよ」


「あ、徳永さん久しぶりですぅ。
お姉、どこ行っちゃったかわかりますぅ?」


…すると彼は手招きしてきた。


「実はね、おしんちゃん、結婚したんだよ。」

「えーーっ!ほんとですかぁ!誰とですかぁ!!」


「シーッ!シーッ!声が大きいよ。」



彼はニたび彼女に耳打ちした。





「それがね…。人間と結婚したんだよ…」





それを聞いたおきぬの顔は一気に青ざめた。