瞬が観たいと言ったその映画は、あの有名なアクションヒーロー映画のアンコール上映だった。
その為なのか、場内は人が少なく私たちは最後列のど真ん中を陣取り、ポップコーンを2人の間に置くと、プライベート空間のようにその映画を楽しんだ。
笑える場面では、互いに大きな声で笑ってしまい、暗闇の中、互いの口を手でふさぎ合ったりした。
そして、少し切ない場面に差し掛かると、瞬は私の手を探ってきて、手を強く握ってきた。
そして、私もそれに応えるように瞬の手を握り返す…。
『互いの感性の押し付け合い』…そんな言葉なんて、私達には必要ない。
同じ場面で同じ気持ちで共感し、お互いの存在を認め合うかの様に、その瞬間(とき)を過ごした。
映画館を出ると、既に外は闇に包まれて居て、イルミネーションが寒々しい冬の夜を彩り始めて居た。
その青白い光達が煌めきを放ち、街は幻想的な雰囲気に包まれて居る。
私達はどちらともなく肩を寄せ合うと互いの温度を確かめる様にして、イルミネーションの中に溶け込んでいく。
それは、いつか見た幸福そうな人々と同じように、その中にごく自然に溶け込み、幸せに満ちた気分でゆっくりと歩いた。
