「…さびぃ!」
顔を離し少しずつ拡がっていく、瞬と私の距離。
瞬の瞳の中の私の姿が段々小さくなって見えなくなっていく。
「…送る。」
「うん。」
そう言って、瞬は私の頭を少しだけ自分に引き寄せると、髪の毛に口づける。
「・・・・艶香の頭、いい匂いがする。」
これが、言葉の愛撫とでもいうのだろうか?
逐一、瞬の一語一句に反応し、腹立たしさとかムカつきとかを覚えて居た筈なのに今は…軽い酸欠状態に似たような、呼吸すらもまともに出来ないような、喜びに満ちた幸福感に浸ってしまっている。
助手席に乗り込むと、車のエンジンがかかる。
暖機の間、瞬は私の右手に自分の左手を絡めてきた。
「…艶香とのバディも、もうすぐ終わりだな…。」
「…うん、そうだね。」
そう一言、話すと手を繋いだまま、瞬は車を走らせた。
私はもう一度、半島からの景色を見る。
もうすでに、日は昇りいつもの朝を迎えていた。
帰りの車中…互いに言葉を発する事は無かった。
私は私で夢うつつのような気分で、ただ静かに前を見据えていた。
時折、信号待ちに差し掛かると繋いでいる手を自分の口許に持って行く、瞬。
音がするかしないかの触れるだけのキスを私の手の甲に落とし、信号が青になると助手席と運転席の間の肘掛に置き、時には強く握ったり、いきなり脱力したりを繰り返す。
