「同じ空の下で…」


なかなか落ち着けない。

心臓は相変わらず高鳴っていて、呼吸も微妙に早くなってしまう。

バッグからシガーケースを取出し、前を見据えて運転する高梨に

「…この車は禁煙でしょうか?」

と、少し遠慮がちに問う。

驚いたように私を見た高梨は、

「…構いませんよ。愛煙家の父は断りもなく吸うし、僕自身も喫煙者ですから。」

と言うと、また前を見据えて運転を続けた。



許可を取ったと言えども、どうも慣れない。

左側が運転席というシュチエーション。

私なら一生かかっても買えないであろうこの外国産の乗用車の助手席は、簡単に煙草で汚してしまって良い席ではないような気がしてならない。

少し躊躇い、またシガーケースをバッグに仕舞った。


「…いいの?」

「…はい。どっちにしたって落ち着かないので…。」

「えっ?」

「…いいえ、こちらの話です。お気になさらないで下さい…。」



・・・・ああ、なんか、やっぱり、ぎこちなくて、息がつまる。

なのに、何ゆえ、こんなに鼓動が速くなってしまうのだろう…。



「…僕は、久しく恋愛ってヤツとかけ離れていました。仕事一筋と言ったら格好良すぎるかもしれませんが、人に好意を寄せると言う余裕すら無かった…。だけど貴方に逢えて、その感情がまだ自分にも備わっていたという事を教えられた気がするんです…。」

突然話し始めた高梨の整った横顔を、慌てて見る。

その顔はどこか、嬉しそうな顔だったのが印象的だった。