ここに来る前の小さなケーキ屋(私のアパート周辺)で、買った紙袋を持ち替えて、今度は私の右手をさりげなく握りながら歩く瞬。
少し足早の瞬の歩幅に合わせて、私も歩く。
「この辺りが、艶香の生まれ育った場所…。」
「うん。そうだよ。懐かしいなぁ…」
昔から見慣れた景色だとしても瞬と一緒に歩くと、まるで新しい景色のように見えてしまうのは、これぞ、恋の力だと、乙女チックな事をおもってしまう。
路地に入り、私の家の門扉が見えてくる。
気付かれないように、瞬の横顔を見ると、緊張気味のような、ちょっと余裕のないような顔で真っ直ぐに前を見据えていた。
何かを決心している顔…そう言うのが妥当かもしれない。
門扉の前で、一旦深呼吸をし、インターフォンを押す、瞬。
『はい。』
「岡崎です。」
「あ、私です。」
『あら、随分早かったね。今、開けるね。』
母の声が聞こえて、門の鍵が開ける音がする。
その門扉に手を掛けて、私が先に入り、玄関の扉を開けた。
開け放った玄関には、ストロベリーティの香りがかすかに鼻をかすめる。
「ただいま。」
「お帰り。」
半年前と変わらない母は、私を笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは。お休みの日に突然すいません。」
