瞬は、実家にスーツがあると言って、いつものTシャツに五分のボタンダウンシャツを羽織り、髪の毛を整えていた。
「支度出来た?」
洗面所から聞こえる瞬の声。
「うん。」
髪の毛をピンで留めながら私は返事をする。
「じゃあ、行くか。」
洗面所から現れた瞬の瞳を真っ直ぐに見据えて私は答える。
「はい。」
…なんか、イベントの時に、…嫌々ながらにスポンサー巡りを始めた事を思い出す。
あれもまた、私と瞬の大切な時間の一つになるなんて、あの頃は微塵にも思わなかったな。
母に電話をしてみれば、今日は何も予定も無く、家に居ると言う。
反対に、瞬のご両親は、おじいちゃんの件でなかなか多忙な中、時間を取ってくれると言う。
「ま、俺のトコはなんとでもなる。大体、もう艶香とお袋は面識あるし、親父も特に何も言わないだろうし、やっぱり艶香の母さんのトコが最初にご挨拶に行くべきだと思うんだ。いいだろ?」
「…うん。順番は…瞬に任せます。」
「よし。じゃ、まず艶香の家に挨拶行くか。」
「あれ?でも、瞬、その格好で行くの?」
「…あぁ。そっか、スーツに着替えるか?・・・・いや、別にいいか。このまま行こうっと。」
「そ、そうなんだ。」
「駄目?」
「…ううん。駄目じゃないと思う。」
…駄目じゃないけど、瞬のスーツ姿を久々に見たいと思ったんだけどな。
「じゃぁ、行こうっか。ケーキとか買っていこう。」
「うん。」
いつもなら、瞬に手をひかれて行くのだけれど、珍しく瞬が腕を組んでほしそうに、腕を差し出したので、私は瞬の腕に手を絡めて歩いた。
朝の光がやけに眩しく感じた。
長い長い上り坂を2人の影を携えながら、私たちは歩いた。
