「艶香、いいのか?」

「…ん。いいよ。帰ろう?」

少し背の高いタケルは、私を気遣うように身体をかがませて顔を覗き込んだ。

「…なら、いいけど…。」

タケルは口を尖らせ、腑に落ちないような表情でまた前を見て歩き出した。

私も、前を見て歩き出す…。

「…あ…。」

周りの空気を纏うような、妙な雰囲気で歩いてくる背の高い若者と見覚えのある初老の男性が、視界に飛び込んでくる。

その眼鏡の奥に潜む鋭い眼光は、まだ、私の存在に気付かずに居る。

「…ん?」

タケルは、私のちいさな声を聞き逃さずに、私の目線の先を見た。

「…艶香、知り合い?」

「…うん、まぁ…。」

目を泳がせながらなるべく相手に気付かれないように視線を探る…。


「おや?英さんじゃないか?」

そう、声をかけてきたのは、初老の男性、そう。お見合いの時に居た高梨准一の父…Takanashi.coの社長の方だった。

私は軽く会釈をする。

隣に居る、フォーマルスタイルのスーツに身を包んだ高梨准一は、何も言わずに驚いた表情で目を見開いている。

「…御無沙汰しております。」

足を止め、丁寧に挨拶をする。

「こちらこそ、ご無沙汰してたね。元気かな?」

「お蔭様でございます。」

「故人とは…知り合い…かな?」

「…ええ、まぁ…。」