「ねぇ、結局ナビ使うんなら、私はナビしなくていいんだよねぇ?」
「あ、そうかもな♪」
ご機嫌に微笑む瞬は、ごく自然な動作で私の右手を手に取ると、その手を握った。
…運転しながら、手を繋ぐ────。
瞬は、その行為が大好きだった。
握られた手を、私は握り返す。
…その時に脳裏に蘇って来たのは、高梨が私の手を握っていた…あの日の出来事だった。
瞬に手を握られていると言うのに…あの時のドキドキした感情とか、彼の表情とか…鮮明に頭に浮かんでくる。
私は軽く頭を振った。
「…どした?」
瞬が私の謎の行動を気にして話しかけてくれる。
「…ううん、何でもない。」
私は…平気なフリをする。
何でもない訳がない。
瞬以外の人間にこの手を握られた事を…かき消そうと、記憶から消そうとしてるのだ。
悟られないように…そして慌てる様にして、一生懸命に会話を探す。
「瞬、アメリカ、楽しい?」
瞬の少し日焼けした、大人びて見えるその横顔を見ながら、私は後ろめたさを隠しながら、瞬に問う。
「楽しみ方を知ると、とてつもなく楽しいさ。だけど…」
「だけど?」
「気分が…落ちる時は、とことん落ちるよ…。」
そう言った後に、私の手に力が込められる。
