「先月、渡米しました。なので、会える距離じゃないんです。デートしたくても出来ないんですよ。」
「そうか…。それで辻褄が合う。…実はですね…先日、雨の中を楽しそうに歩く艶香さんを見かけたんです。隣に誰かの影があるようで、その相手を目で探しましたが見当たらなかった…」
「や、やだ、恥ずかしいっ!」
私の顔は一気に赤くなった。
恥ずかしい…。
あの、瞬との電話の前に、私は確かに霧雨に霞むビジネス街を散歩した。
様々な瞬との思い出を辿るかのように半ば半笑いになりながら実に怪しく歩いて居た事は事実だ…。
その姿を見られていた…。
恥ずかしくなって、口元を覆いながら私は高梨准一の顔を見上げた。
彼は柔らかい笑顔で私に笑みを返す。
そして言葉を続けた。
「その時の…あの雨模様と艶香さんの姿の美しさに、すっかり心を奪われた…」
そして、さっきまで逸らさずにいた美しい瞳を急に逸らして一つ咳払いをすると不自然に深呼吸をした。
その仕草を不審に思いながら、彼の顔を相変わらず見上げた。
「…艶香さんを好きになってもいいでしょうか?」
「………へっ?」
人間、本当に驚いた時って、本当に漫画のようにこんな声が出てしまうんだなって妙に冷静に自分を分析しながら、私はまた慌てて口を覆った。
部屋の空気が一瞬静まり返り、遠くから雷鳴が聞こえる。
私は何も言えずに、彼とぶつかり合う視線から目を逸らせずに居た。
