すっかりお腹が満たされた私は、一旦箸をお膳の中に休ませ、ウーロン茶を片手にして、(本来なら噛みつきたくなるような相手である)高梨准一と他愛もない会話を交わしつつお互いの何気ない日常の話をしていた。
一応、お見合いの場を自分なりに取り繕い、大人しくして居たのだ。
言わば、仮面を被って、そこでその場の雰囲気というものを壊さない努力をしていたのだ。
唐突な『退散宣言』に思わず、声の出し方すら忘れる。
…ここでまた二人っきりにされてしまうのですか…?
『あとはお若い二人で…』と、よくテレビで見た事のあるような、お見合いのシチュエーションが今、まさに自分が目の当たりにしているのである。
「そうだな、英君、そろそろ私は失礼するよ。」
「いや、あの、その…私も一緒に…」
帰りたいのですが…。
会社からここまで一緒に来たのだから…置いて行かれても困るのです…が…と言いたいのに、…言えない。
「英君、せっかくだからゆっくりして行きなさい。」
案じてくれてる言葉だと充分に理解は出来るのだが…、今またここで高梨准一と
二人きりにされるのがとにかく嫌だった。
「この部屋は14時まで予約してあるから、あとは二人で好きなように使っていい。」
「社長、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます。」
自らの父を社長と呼び、更には頭を下げている高梨准一はほんの少し紅潮した頬で、涼しい顔で答えた。
わたくしめは、素直にお言葉に…甘える訳にはいきません…。
