もう、一生こんな所になんか来れないんだろうな。
お見合いと言う場を忘れ、私はしばらく日本庭園の美しさに目を奪われていた。
「お飲物は、どうされましょう?」
「先方が見えられたら、頼むとしよう。まずはお冷をくれないか?」
「わかりました。…お嬢様は?」
女将に呼ばれ、慌てて私は部屋の方に体を向けた。
お嬢様…お嬢様……聞きなれない響きに自分の事だなんて全く気が付かなかった。
「同じもので…!お、お冷で。」
常務は渡されたおしぼりで、頭やら首やら顔やらを拭きながら私の顔と反応を見て会社では見せないような顔で笑った。
「…私、代役が務まるのでしょうか?こんな場所は初めてで…何だか…」
「大丈夫だ。そんなに構えなくていい。いつも通りに振る舞ってくれたらそれでいい。」
「…そ、そうでしょうか…。」
大体、お見合いと聞いた途端に、自分の今日の格好が酷くみすぼらしい姿に見えて来て、肩を落とした。
まるで、これが最高の正装であるかのように見せているような気さえしてくる。
こんなんだったら…もっと真剣に服も探したのに…。
「先方の方がお見えになりました。」
長い縁側をドタドタと歩く音が聞こえる。
俯いていた頭を上げ、一気に緊張感に包まれ、私は座り直し背筋を伸ばした。
「お待たせいたしまして申し訳ありません。」
少し年配気味の品のいい男性が帽子を取り、先に常務に挨拶をした。
続いてその息子であろう人の顔を見たらバッチリと目が合ってしまう。
そして息を飲んだ。
そこに居るもう一人の男性は・・・・高梨准一だった。
目が合い、彼はニッコリと私に微笑みを返す。
「はじめまして。今日は宜しくお願いします。」
嘘付け!初めましてなんかじゃないだろうにっ!!!
