ありったけの感情を出した表情で、高梨の顔を見上げた。

もちろん、その顔というのは、世間一般的には、怒ってる顔である。


すると、楽しむかのように、私の顔を見て、口角を上げて笑った。


「怒ってる?」


更には、顔を覗き込むように、私の顔に彼の顔が近づく。

半歩後ろに下がるが、私は至って表情を崩さずに彼の顔を見た。


「…怒ってます。からかって居るのなら、やめて下さいと、昼間も言った筈です。」

「からかってなんか居ないですよ?本心のままに行動したまでです。貴女が明日、社内で噂になるのを避ける為の行動だったのですが…お気に召されなかったみたいですね。」


そう淡々と話すセレブ高梨は、やはり何処か楽しそうに話しているように見えて私は右手首をまた振り払ってみた。

「離してくださいっ!」

「いいえ、まだ離せません。」

「帰りたいんです!電車…無くなるかもしれないじゃないですかっ!」


咄嗟の言い訳が、そんな理由なのが…実に情けない。

怒ってる癖に、そんな理由しか浮かばない…己の低能さに嫌気が差す。


「では、私が車で送りましょう?」


勝ち誇ったような顔で私を相変わらず見る。


完敗…。


そう認めた時にやっとの事で、自分の表情は怒りから解放されるかのように、いつも通りの顔に戻った気がした。