「ところで、英くん。」
「はい。」
「来週で構わないのだが、土曜日は、何か予定はあるかな?」
「…土曜ですか?」
「休日に申し訳ない。会食に同席してもらいたいのだが…。勿論、人事には話して仕事扱いにしてもらう。大丈夫かな?」
「承知しました。空けておきます。」
「宜しく頼む。では失礼する。」
「お疲れさまでした。」
会社が休日の日に取締役等の会食に同席する事は、秘書の私たちにとっては珍しくない事だった。
とは言っても、私が常務の秘書に携わる事になってからは初めての事だが、長年社長秘書や常務秘書をしてきた香織さんは、よく休日出勤扱いで会食に同席したりしていたのは知っていた。
また秘書じゃなくても、常務や社長の休日ゴルフには、総務課の課長、主任他、社員が貴重な休みを削ってまでわざわざお供するのも、知っている。
男性社員も男性社員なりに…大変そうだなぁと他人事のように思っていた。
常務室を施錠し、給湯室で湯茶セットを片付け、自分の席に着いた時は既に定時を過ぎていた。
隣の席の香織さんも、まだデータ入力をしていた。
「お疲れ様~」
「香織さん、社長も今日はもう帰社されたんですか?」
「うん。16時にはここを出たよ。取引先のパーティに出席されるらしく、それが17時30分からだから、早めに帰社するって。」
「お忙しいんですね、社長も。」
「常務は?もう帰った?」
「結婚記念日だからと、10分前には帰社されました。…あっ!香織さん!」
「ん?」
「来週の土曜日に、会食に同席するように常務にいわれたんですけど、どうしたらいいんですか?」
