「同じ空の下で…」


常務から、机上のデスクへと連絡が入ったのは、間もなく定時が来ようとする時間だった。

「来客者が帰った。私もそろそろ退社する。」

「承知しました。すぐ伺います。」


やりかけていた経費処理の為のソフトに保存をかけ席を立ち上がると常務室へと向かった。


…この後の事…。

そう、セレブ高梨に誘われた事を思い出し、一気に足取りは重くなる。

コーヒーを飲む位は、いいのかな?

いいや、やっぱりそれは…。


瞬の立場になって考えてみる。

この話が逆だとしたとき、瞬が誰か異性に誘われて時間を共にする事を聞かされたりした時、私はどう思うだろう…────。



そうだ。絶対にいい気分はしない。

断るべき事なのである。




私は常務室へ入ると、淡々と来客者の席を片づけ、ソファの前にあるテーブルを軽く拭き終わると、常務を見た。

帰社する準備をする常務。

「いつもありがとう。少し早いが、本日は帰社する。なにか…託はあるかな?」


「特に承っておりません。本日もお疲れ様でした。お気をつけてお帰り下さい。」


「今日は、結婚記念日なんだ。申し訳ないね。」

「そうですか!おめでとうございます。」


片手にトレーを持ちながら、私は常務に小さく頭を下げた。