その晩の月はとても美しくて、部屋の灯りを消して、そのまま、暫く瞬とベランダで煙草をふかしながら月を眺めて居た。
絵に描いたような完璧な三日月の周りには、ぼんやりと輪がかかっていた。
「…こんな月、あっちでも見れるのかなぁ…。」
そう呟く瞬の瞳は月の灯りで少しだけ光が反射している。
「多分、今日2人で見たこの月を思い出すんだろうね、お互いに。」
瞬と同じ月を見ながら、多分、私の瞳にも月明かりが反射しているだろう。
「…2人を隔てる距離がどれだけの距離であったとしても…きっと同じ気持ちで月を見てる…」
「そう、同じ気持ちで…ね。」
同時に同じ月を眺める事は、出来ないだろう。
瞬がこれから向かう異国の地と、私が居るこの日本は、時差で昼夜が真逆だと思う。
だけど、きっと、月を見ている時の気持はお互いに同じ気持ちだろう。
「…ここに来て、この時期に来てもまだ…これから先の事に不安は尽きないんだ。」
「うん。」
「多分、逃げたくなる時も来ると思う。」
「うん。」
「だけど、逃げずに…ちゃんと成し遂げたいと思う。」
「うん。」
「弱くなって、艶香に弱音吐いても、幻滅すんなよ?」
「…うん、分かってる。瞬に限らずに誰にだって、そうゆう弱さって…あるんじゃないかな」
