「…艶香も、ちゃんと来いよ?」
「…当たり前じゃない。一番、激励してあげるよ。」
瞬は、私の右手から手を離すと、私の髪の毛をわざとくしゃくしゃにするようにして頭を撫でた。
「ちゃんと、俺を…人一倍、激励してやってよ?」
「…瞬、他力本願すぎ。」
「…本当、情けないよなぁ…俺。」
いつになく弱気な瞬の言葉。
ちょっと調子が狂ってしまう。
「今週でさ、俺のアパートも引き払って…、大きい荷物は実家に預けたんだ。」
「うん、そっか。」
「ちょっとした小物とか…艶香んちに置いてもらってもいい?…あと、服とか。」
「…いいよ。」
…そんなもん置いてかれたら…私は毎晩、瞬を思って泣いてしまうじゃないか。
…なんて事は、勿論言えなかった。
「じゃ、今度置きに行くよ。」
「うん。いつでもどうぞ♪」
無理に明るく笑って、振る舞ってみる。
あんなに会いたくてたまらなくて、自分を抑えた筈なのに、いざとなると何を話したらいいのか分からなくなる。
だけど、同じ空間で同じ物を見て、同じ空気を感じてる…もしかしたら、それだけで充分なのかもしれない。
目の前に、私の部屋が見えてくると、瞬の車は緩やかにそこへ向かった。
