もう、カラオケなんて久しくやってないし、最近の曲なんて全く分からないし、伊藤主任からの『まず場を盛り上げる』というミッションは到底私には務まる事ではなかった。
「下手でも何でもいいから、適当に何かかければ、その場も盛り上がるってもんだぞ。あとは、若手が盛り上げて行くだろうから。まず、一曲、ミスってくれ!」
・・・・・なぁんだ、そりゃ。
まずミスれって…。まず、最初に恥をかけと言ってるようなもんじゃないか。
「…はいはい、わかりました。」
私はしぶしぶ、どうでもいいような曲…新人も主任も…勿論、同世代の人間にも分かるような曲を選曲すると、ヤケクソのようにしてその曲を熱唱して、見事に恥をかいてやった。
案の定、主任の思惑通りにその場は大いに盛り上がり、曲もバンバン入り始めた。
「いいぞ!はなぶさ。」
「艶香さん、good セレクト!」
「・・・・ありがと。じゃ、わたしは…これで…。」
小さな声で、隣の吉田君に聞こえるか聞こえないかのような声で言うと、吉田君は、
「えっ!帰るんですか?」
と、大きな声を出すので、慌てて私も付け加えた。
「・・・・ちょっと…トイレに行ってきます…」
と、見せかけて・・・・
ドアを閉め、部屋を出ると、急いでその場から駆け出し居酒屋を後にした。
