「艶香、ちょっとこっち来て」
振り向くとさっきまで隣に居た由美が、事務所のドアの付近に立ち手招きをしていた。
ホチキスを一旦テーブルに置き、タケルから渡された書類を丁寧に置く。
立ち上がり由美の方にいくと、由美が大きなバッグから、仕事用のコスメバッグを取り出した。
そのまま、化粧室へ連れていかれて、一体なんなんだろう…と、私は目を丸くして由美を見た。
「つやか…ちょっと、じっとしててね…。」
由美は、私の後ろにまわると、ヘアクリップで私の後ろ髪をかきあげて止めた。
「なになに~…?」
慣れた手つきで、クリームタイプのファンデをスポンジに馴染ませると、私のうなじに軽くたたき込むように塗る。
そこに、心地の良いブラシをあてがい、手際良くフェイスパウダーを馴染ませる。
「・・・・大丈夫かなぁ…。」
鏡越しに由美を見ると、私のうなじを近くでみたり、遠目で見たりしていた。
「ま、じっくり見なきゃだいじょぶかな♪」
「・・・・な…なに?」
固まったまま、由美の顔を鏡越しにみる。
すると、大きな由美の瞳が、たちまち細くなり、私に微笑む。
「…ここに来る前、瞬と一緒だった?」
「…うん、まあ…。」
