春雨や曇り硝子の窓の中

みちのくの山の影伸ぶ春の水

てふてふのはらはらなりてひとり泣く

大臣の大口あけて春眠し

若鮎のわれもわれもとまつしぐら

草餅や笑みもこぼれる吾子の口

雨滴のリズム正しき春炬燵

水底を覗きたがりて春の昼

若人の声も渦巻く海雲哉

菜の花の日は大円を描きけり

浅智恵の悔ひることなる干潟かな

春光の齢二十に余りあり

あたたかやゆるゆるゆらり舟の上

海女訪へば郷も愈々賑はへり

爛々となりて恋しさくら草

紅々と頬染まりぬる弥生かな

鶯や雲たれこめてしづかなり

花の屑題名だけはそのままに

旧友の消息知らじ木の芽風

せはしなきけふの会話や花曇

乳飲み児のまろき瞳や藤の花

虻のゆく待たねどゆくは虻のおと

鍵盤の滑らかなりて春の雨

乙鳥の泪こぼれぬ瞳かな

四月馬鹿母の病にせられけり

花冷や学生街の古本屋

長雨の中や水草の生ふてをり

囀りや三重奏のコンチェルト

少年の手にあまたなる啄木忌

ひた走りあれに見ゆるは山桜

山吹の河に落とせる姿かな

人づてに知りて咲きけり桃の花

春愁の書物をとりて学ぶこと