狐の里






九尾の后が治めるこの地に紅緋はいた











「鉄太殿のお陰で昼前には着いたな」

「じゃあ鉄太、暫くそこらでのんびりしてくれ」

『承知!』















鉄太が見送る中、四人は后のいる場所へ向かう













「御殿は久方ぶりだな」

「行った事あるんだ?」

「里の幼い狐が迷っていてな。送った折りに挨拶だけ」

「人間風情が気安く行く場所ではないぞ」













里の狐達は尻尾は一尾




里の中心に建つ御殿は狐の最たる存在である九尾の一族が住まう聖域である


故に聖域の前は鬼の眷族が守っている









「蛇の女の姫か」

「蛇の女の一族が長、白姫の代理として参りました。長から書状を賜りました。后殿にお目通しを」










鬼が頷くと戸口に飾られた鈴を鳴らす






奥からちりん、と鈴の音と共に白髪で黒い布で顔を覆った女が現れた










「依鈴(いすず)殿。久方ぶりです」

「紅(あか)の姫君、用件は承っております。后がお待ちです。こちらへ…」












依鈴に案内されたのは、広い謁見の間






そこには既に御殿の主がいた




紅緋と三人の妖は膝を付き頭を垂れた














「よく参った。面を上げよ」








紅緋が顔を上げれば、后の美しい顔が微笑んでいた








内心慌てながらも平静を装い、書状を差し出す









「そう固くならずともよい。楽にせよ」










受け取った書状を広げる后に紅緋は聞いた










「白姫から后殿に呼ばれていると聞きました。理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」










ふむ、と后は書状から目を離し紅緋を見つめた













「お前を呼んだのは、ちと頼みがあるからじゃ」

「頼み?」









微笑みながら頷く




















「后、蓮(はす)姫様がいらっしゃいました」









襖の向こうにいる依鈴の言葉に后は頷く











「…入れておくれ」











静かに開く襖


依鈴の後ろから現れたのは若い姫君だった








紅緋と同じ背丈の依鈴の脚よりも低く、小さな背まで伸びた黒髪は艶やかで美しく、まだ10にも満たない幼子の表情は固い












「蓮華(れんげ)、お前が待ち焦がれた紅の姫じゃ」











蓮華、と呼ばれた愛らしい姫君











しかし紅緋は初めて会うこの姫に何故か懐かしさを覚えた