「…帯がこんなに分厚く、重いとは…。下駄も歩き難い…」









普段着なれぬ重い着物を引き摺らぬよう傷付けぬよう洞窟を抜けた紅緋は困っていた









「この姿では山を降りられないな…」












普段は短く薄い着流しに草履という軽装なので妖術を使い空を飛んだり、使わなくとも岩を伝って軽々と跳び降りる事が出来た


しかしこの姿で飛んだり跳ねたりすれば下駄が駄目になり着物も駄目になる








どうしようかと思案していると、大きな羽音が響く








「準備出来たか」

「鈍殿。態々迎えに…」








岩肌に着地した鈍は紅緋の言葉の途中で何も言わず紅緋を横抱きにした










「っ!?」

「暴れるなよ?流石にこの重さで暴れられたら落とすからな」

「こ、このまま狐の里へっ!?」

「心配すんな。足はある。お供は俺含めて三人。いや、足含めたら四人か…」

「…多くないか?」

「其々の長が『国一番の美姫は美男に囲まれて牛車で移動だろ?』って意見の一致があったからな」

「…そんな一致…」










鈍に抱えられながら岩山を降りると、牛のいない車の前に二人の青年がいた









「遅い。人間ごときが我らを待たせるな」







白い髪に透き通るような白い肌、吊り目が特徴的な鈍と同じ位の長身痩躯の青年と








「ふふ。蛇の女の長殿や稚児達に遊ばれたんだ。許してあげたら?」







顔の左半分を覆う黒い髪に耳と指に銀の飾りを沢山着け、晒された右半分の顔に刺青のある優男








「銀呼殿、聴司(ちょうじ)殿」







銀呼は雪鬼(ゆきおに)と呼ばれる文字通り雪原に住まう妖で紅緋を睨みながら悪態を吐き、聴司は覚(さとり)と呼ばれる他人の心を読む妖でこちらはただ笑って出迎えてくれた









「本当に申し訳ない。皆様もやる事があったろうに…」

「全くだ。書殿の仕事をなんだと思っている」

「文車妖妃(ふぐるまようび)のあやのちゃんいるから大丈夫って思ってるくせに」

「勝手に思ってもない事言うな(怒)」

「僕は基本ふらふらしてるだけだし、緋色さんに会いたかったしね」

「聞く気無しか(怒)そして人間と馴れ合うな。吐き気がする(怒)」










何度も話には出てきてはいるが銀呼は大の人間嫌いで、紅緋の事も例外ではなく毛嫌いしているように見えるがこれでもましになった方である(爆)


対する聴司は人間に対して冷めた所もあるが人間が嫌いな訳ではなく寧ろ好きな方であり、よく人間の国に赴いては子供と遊んで楽しんでいるし、紅緋を「緋色」と愛称を付けてなついている










「お前ら。輪入道(わにゅうどう)が困ってるから早く乗れ」









鈍に促され牛車に向かう


右側の車輪には鬼の顔がついていた








「聴司は上で、銀呼は中で紅緋の護衛」

「わかった」

「俺は人間の護衛などせん。俺が上に乗る」

「齢何百が我儘言うな。覚の能力を最大限に使いたいし俺は周辺を守るから」

「大体俺は…」












揉める三人(銀呼が嫌がってるだけだが)を困ったように見守っていると、視線を感じた








『・・・・・』











見ると車輪の鬼の顔が紅緋を見つめていた