「…そう。わかった。ありがとね」







白姫は紅緋の清めを手伝った稚児達に礼を言って下がらせる








「…困ったお姫様よねぇ」









度々稚児達から紅緋の様子がおかしいと報告は受けていた




そして今、彼女達から話を聞いて溜め息が出る









紅緋が必要以上に自分を卑下し卑屈になるのは、共存共栄を望む自分の思いが優しくしてくれた妖達の気持ちを踏みにじる裏切りではないかという不安と罪悪感から来ている事を知っている



度々人間の国への偵察を希望し、帰って来る度に彼女が人間との和解する事を希望している事やその困難への苦悩の狭間で苦しんでいるのもわかっている








「…そんなあの子に書状の内容は言えないよね」









ここ最近人間を襲う妖達が増え、それがただ快楽的に殺すために襲っているのが見てとれた





その先頭に立つのが鵺の一派だという









「…鵺には人間の子供がいる。これを話せばなにか関わっているんじゃって、またあの子が気に病む…」








七年前、鵺の長との交渉で一人の男児がその長の下に行った


今でも文渡しや偵察に行く際に探している紅緋を見る度に可哀想になる







「…后殿に相談しよう」







白姫は傍に置いていた鳥籠から一羽の小鳥を出した









「…后殿、蛇の女の白姫にございます」








妖の世界では誰にも言えない極秘情報を仲間に伝えるために秘言雀(ひごんじゃく)と呼ばれる小鳥を飛ばせてやり取りをする


その言葉を記憶し、相手に声を伝える重要な存在でもある









「…このままでは紅緋は責任を感じて姿を消してしまう。それだけは避けたいのです。あの子はこの国から失うには余りにも大きな損害であり、脅威に成り過ぎた」









妖の知識を記憶し操る術を持つ紅緋は、手放すには余りにも強大な存在になっていた


彼女の性格上、離れても敵にはならないと思うがその優しさに付け込み利用する人間がいないとも限らない






だがそれ以上に彼女は妖から愛されているし、白姫自身次期の長にはしてやれないがそれを支え教育する役目を担って欲しいのが本音である










「あの子の苦しみは、もう限度を越えています。何卒紅緋を、私の吾子(あこ)をお助け下さい」







蛇の女は世継ぎを産み育てるためにその一族の長に嫁ぐ者と、別の妖と結ばれ出ていく者に別れていく






その長である白姫は世継ぎを産まない


蛇の女の長は洞窟から出られぬ定めを背負い、蛇の女の媛を育成するためだけに存在する









人間の寿命は妖からすれば刹那だが、その時まで傍にいて娘と呼べるのは紅緋しかいない










白姫の願いはただ一つ










どちらかが命を全うするまで自分から我が子を引き離さないで欲しい、それだけなのだ