岩山を降りた場所に泉がある




その泉から流れ、川となる場所で紅緋は身体を清める







降りる途中で会った蛇の女の稚児二人に腰まで伸びた髪の清めの手伝いをして貰う











「蛟の大事な世継ぎが生まれる時に私の世話などしなくとも…」

「紅緋様は長の娘です。貴女様も大事なお方なのですから、人間だからとそう自分を卑下なさらないでください」

「そうです。私が蛇の女の一族に入ったばかりの頃に何度も優しく指南して下さりました。紅緋様は我々にとっても一族の姫様です」









蛇の女は様々な種の蛇の妖の中でも下の位になる蛇の女児を稚児として一族に入れる事で成り立つ


さらに稚児は年を経て媛位(ひめのくらい)となり、夫となる妖の一族へと嫁ぎ世継ぎを生む









紅緋は妖について理解した六年前から蛇の女の稚児達に指導をしてきたが、その優しく解るまで飽く事も怒る事もせず教える姿は幼い蛇の女の憧れだった










「…姫、か…」












しかしそんな彼女の表情は暗い








「…紅緋様?」

「…だが私は人間だ」








水鏡に映る自分を見て、寂しそうに呟く









「妖としての名を貰っても、妖術を使えても、普通の人間に勝る才を持っていても、それだけは変わらない」

「そんな、そんなつもりで言った訳では…」

「済まない、お前達は悪くないんだ。悪いのは、私だから…」

「いいえ…。紅緋様は何も…」









妖であるから人間は妖を襲う





人間を喰わなければならないから妖は人間を襲う








人間であるが故に人間の事を憂い、妖に育てられた故に妖の事を憂いた










「妖とて全てが人を喰う訳ではない。それを理解する人間もいる。全ての人間が悪なのではない。それを理解する妖もいる」

「…私達もそれは承知の上です」

「しかしそんな人間の妖への悪態や差別が激しく、ましてや見世物として売る者もいてはどうしても…」

「…そうだな。それが一番の問題なんだ…」

「紅緋様…」

「あぁ、あとは一人で大丈夫だから早く仕事に戻ってくれ。私も直に向かうから」







稚児達を下がらせた後も紅緋は物思いに耽る








「共存共栄は、やはり無理なのか…」










妖の事、人の事を知っているが故に尚辛さが増す









そしてそれが大切に育ててくれた白姫や助けてくれた后や鈍達を裏切るのでは、と心の重荷となっていく










罪悪が、彼女を蝕んでいた