「ないっ!今日もないっ!!」

 人が行き交う賑やかな街中にある路地裏の一角でユーリは命の次に大事にしている財布をひっくり返しながら声をあげた。

「ここんとこ仕事してなかったからなぁ……仕方ねーっちゃあ仕方ねーんだけどひもじぃぜ……」

 銀貨の形も見えない財布に自然と溜め息が出る。

 ユーリの暮らすこの街シュスは大国ティンレンの中でも有数の商業都市で、そこかしこに店が立ち並び人がごった返している。

 買い物に来ている人、商いにせいを出す人、大人も子供も入り乱れて活気に溢れている街だ。

「仕事はしてぇけど、こうヘラヘラ笑ってる奴らばっかじゃ簡単には見つかんねーじゃんかよ、ったく……」

 ユーリは財布から大通りの方へ目線をずらすと街の人達がイキイキと動き回る様子が目に入って、思わず不満が顔と口に出てしまった。

 シュスで行われている商いは多岐に渡る。衣類や食品を扱う店は勿論、交易が盛んなのもあって観光客相手の土産物屋も多い。

 そんな街で暮らしているのだから仕事などすぐに見つかりそうなものだが、ユーリが生業にしているのは特殊も特殊でそう簡単には金にならないのだ。

「あ~、もうこの際金なんて贅沢言わねーからどっかに食いもん落ちてねーか食いもん!?」
「……うわぁっ!!」
「おわっ!?」

 苛立ちを隠そうともしないでキョロキョロと周囲を見回しながら歩いていると、大通りに差し掛かった所で誰かとぶつかった感触がした。

「わりっ、平気か?」
「うん、大丈夫。」

 手に抱えていたらしい林檎が散らばった中心にうずくまっていた小さな男の子はユーリの声に顔をあげる。ニッコリと笑いながら忙しなく林檎をかき集める姿は何とも言えず微笑ましい。

「ほら、こっちにも落ちてたぞ?」
「あっ、有難う!」

 足元に転がってきていたのでそっと手渡すと、男の子は受け取ってじっと手の中の林檎を見てからもう一度ユーリの手に乗せてきた。