なぜなら…湊くんが来たから。


あの、謎の転校生。




確かに、顔はすっごくカッコいい。




そこらの俳優やアイドルなんかより、ずっと。




でも。



でも…彼には何だか、何もなかった。





顔はすっごく整っているのに。




…彼には、笑顔もないし、優しさもない。


……何も、なかった。





どうして、彼は弱さを…本当の自分を、隠しているのだろう。



私は、自然と、彼のいる方へと、ゆっくりと歩み寄った。


彼の「本当」が、知りたい。



彼の弱さが見たい。





成田以外にこんなに内部をみようとするなんて、初めてだ。




…違うよね。




私は……違うよね。




本当を見せないヤツになんか、絶対に好きにならないよね……?
私は…自分が苦しくないように、…もう、誰も好きにならない。


好きになったって、…実らないばかりで。
マンガや小説みたいに、うまくなんかいかない。

…バカみたいだよ。



成田を本気で好きになって、あっちは、そんなつもりはなかったのに…。


ただ…寄ってくる女子たちから逃げるためだった。



…ふふっ。





笑わせないでよ。



…これ以上、無駄なことで笑わせないでよ。




「成田」


だれ? 私の名前を呼ぶのは誰?




「成田! 落ち着け」




オチツケ…?



私は、いつも冷静だよ。





落ち着いていないのは、そっちじゃないの?




「…成田!」



突然、ふわりと私の体は宙をさまよう。





いく宛のないこの想いは、どこにいくんだろう。


この苦しみは…消えてくれる?



「成田…自分を攻めるな」




…え?

何言ってるの?




「素直になれ」



いつか聞いた言葉だ。



ああ…。祐樹も同じことを言ったんだ。


「攻めてなんか、ない。攻めてなんか…」



そうだ。

攻めてなんかないよ。
ただ…この想いは、どこに行くんだろうって、気になっただけ。

いく宛もなく、居場所なんかどこにもない。
この想いは、どこに飛んでくれる?


「…湊くん。ありがとう」

私ね、いつの間にか湊くんって呼んじゃってる。
きっと…慣れたんだ。
パシリばかりに私を使うけど本当優しい人。



ただ……不器用なだけだ。



自分気持ちうまく相手に伝えることができず、いつも疑惑ばかりを生んでしまって。




…そうだよね?




柴咲湊くんは、きっと…不器用なだけなんだ。


だから、最初は誰もこの優しさを知らないだろう





パシリばかりに私を使うけど、本当はとっても優しくて、一生懸命な人。


わかったよ、私。



「……っ」


ふふっ。湊くんが顔を真っ赤にさせてる。



きっと。…こんな風に誰かに言われたことが、あまりなかったからかな。







でも、これからは私が教えてあげる。

守りたいものがあるって、すごくいいことだから。


「もー、大翔ぉ!」


「…なんだよ、うるせーな」


この声って…もしかする?





だって、知ってるもん。




この声……大翔だ。そして、胡桃ちゃん。



…みたくないな。





目があったら、心は高鳴るけど…同時に、涙が出てくるんだ。




だから、嫌。




「あ! 成美!」



胡桃ちゃんは、当たり前かのように、私の元へと駆け寄る。




…来ないで。



そう、叫びたかった。


でも……。
「…柴咲くんも! …もしかして、デート?」


なんて、ニヤニヤとする。

違う。湊くんとは、そんなんじゃない。



…違うの、大翔!


心の声は、絶対届かない。


…わかってたのに。