「…胡桃と成田くん、付き合うの⁉」

…うるさいなぁ。会話が丸聞こえだよ。

私はお弁当を食べていた。
そしたら、大翔…成田に告白したらしい胡桃ちゃんが、友達と嬉しそうに会話しているのを聞いた。
…いや、正しくは、聞こえた、だ。

胡桃ちゃん、可愛いなぁ。

やっぱり、女の子って、恋をすると、可愛くなるんだね。

あ、胡桃ちゃんは元々も十分可愛いから、今はさらに可愛くなった感じ。


何だか、微笑ましいな。

もう、ドキドキも、痛みも、苦しみも、成田のことを考えてもまったく起きない。



私は、成田を忘れることができたんだ…。


やっと、…あの苦しみや辛さから、逃げることができた。


そう思ったらなんだか気が楽になった。


「…成美」


祐樹が私に話しかけて来た。



「…なぁに?」

あれ?


何で?

「…お前、まだ成田が好きなんだろ?」


…違うよ。成田なんか…成田なんか好きじゃないもん。


…でも、苦しいのは何でだろう。


成田の声を聞くたび…成田って、いうたびに、私の心はいつも切なさでいっぱいだった。



……何で。


もう、忘れるって、決めたのに。


「…成美、素直になれよ。お前は、十分可愛いから、…成田は絶対正気じゃねぇから!」


素直…?


スナオって、何?


…ダメなんだ。素直になったら、ダメなんだよ、祐樹。



私は…元々好きじゃなかった。



こんなヤツのことなんか…。





あれ?


何で?


……何でこんなに涙が出てくるの?


泣きたくなんか…ないのに。



どうしてだろう。



成田がいると、私は、私じゃなくなってしまう。

…でも。



「…祐樹、私は大丈夫だよ。大丈夫なのに…!」



こんなに苦しいのは何でだろうと、私はずっと考えてた。



…そしたら、わかったの。



この苦しみは、成田への想いだって。



だから、どうやったら苦しみが消えるのか、考えてみた。



そしたらね…? わかったの。



成田に、告白すればいいんだって。




…でも、私は今日で完全にタイミングを失った。



残されたのは…まっさらな想いと、この苦しみだけ。



「…成美。俺が……」



突然、泣いてる私に駆け寄った祐樹。



でも、その言葉の続きを、私は知らない。




なぜなら……。