職員室まで来たところで、万智ちゃんに待ってもらうように言って、中に入る。


書類を1枚、提出することになっていた。


キョロキョロと、担任の姿を探すけど、見当たらない。



困ったな・・・

職員室の外で万智ちゃんを待たせてるから、できるだけ早く提出して帰りたいのに・・・


転校してきたばかりで、担任の机がどこかもわからないあたしは、更に周りをキョロキョロと見渡していると、

「どうしたの?」

と、声をかけられた。



見知らぬ声に振り向くと、アキと同じくらいか、ちょっと小さいくらいの身長の男の人が立っている。



ジャージを着たその人は、ニッコリ笑って

「なにか困ってるの?」

と、聞いてくる。



少しだけ茶色く染めた猫っ毛の髪の毛が揺れていて、人懐こささえ感じられる。



「これを担任に渡したくて・・・」

と、書類を見せると、目の前に立った男の人は、少しかがんであたしの持っていた書類をまじまじと見つめた。



「向田 奈都芽・・・」

書類に書かれた名前を読み上げて、またニッコリ笑う。



「ここに置いておいたら大丈夫だと思うよ」

そう優しく教えてくれたから、「ありがとう」とお礼をいう。



「いえいえ」と首を振りながら、笑顔を浮かべたままの男の人に、一礼をして、職員室を出ようとしたら、

「俺は、バスケ部3年の山口 遼人(ヤマグチ ハルト)。アキと同じ部活に、クラスだよ。よろしくね、奈都芽ちゃん」

と、言われた。



なんでここでアキの名前が?

と思ったけど、そんなに時間もない。



ペコリ、と頭を下げて職員室を出る。



「先生いた?」

万智ちゃんの明るい声が響く。



ふるふると首を横に振ると、

「じゃあ、先生の机わかる?置いておく?」

と、心配気に言われたから、慌てて事情を話した。