「てっきり学校一緒に言ってほしいとか言うかと思ってたんだけど」



見返り、という言葉が頭に残る。

何も求めないなんてね、と言い残して席を立つ「アキくん」に突如、思い付いたことを言ってみる。



「・・・なまえ!」

「名前?」



立ち上がって部屋を出ていこうとしていた「アキくん」が体はそのままに、頭だけこっちを向ける。



「あたし、名前で呼ばれたい!見返り!いいでしょ?」



「はっ?」



不思議そうにしている「アキくん」にたたみかける。




「だってあたし、正式にはもう「向田さん」じゃないわけだし」






「ナツメ?」






驚きとなんとも言えない嬉しさと気恥ずかしさが同時に襲ってきたのがわかった。


ひとつは「アキくん」があたしの下の名前を知っていたってこと。



それから、本当に呼んでくれるとは思ってなかったこと。





「嬉しいわ、アキ!」



心からの笑顔を浮かべて、あたしは言った。