翌日、僕は千晶と一緒に小野寺家を訪れた。

深雪さんと見合いをしたはずの僕が千晶の結婚相手となり、それについては嫌な思いをされたはずだ。

僕も深雪さんの両親と顔を合わせるのは気が重いのだが、小野寺さんは千晶の親代わりでもある大事な方なので、きちんと報告しておこうと思ったのだった。

当初、両親も同行する予定だったが、僕が引き起こした騒動でもあり、自分でけじめをつけたいと両親に伝えると、僕の気持ちをくんでくれた。

心配していた小野寺さん側の反応は、



「ちいちゃんの気持ちに気がついてやれなくて、かわいそうなことをした」



と、千晶が非難されることも肩身の狭い思いをすることもなかった。

さらには、僕たちがこのように出向いたことへ、わざわざありがとうございましたとねぎらいがあり、あらためて 「おめでとうございます」 と祝福の言葉まで頂いた。

帰り際にこんなことがあった。



「田代君、君は見込んだとおりの男だった。どうだ、まだ間に合う、考え直さないか」


「あなた、いい加減にしてください! あなたのせいで、深雪もちいちゃんも本当のことを言い出せなかったんじゃないですか!」



深雪さんのお父さんの悪い冗談に僕が後ずさりしているとお母さんの一喝があり、シュンとなったお父さんが可愛そうに見えたものだ。

おばさんがおじさんを怒ったのを初めて見たと千晶がびっくりしたくらいだから、お母さんの我慢も限界だったのかもしれない。



深雪さんの ”好きな人がいます宣言”  のおかげで、僕らは良い方向に向かった。

彼女にも会って、礼を伝えあらためて謝罪したいと思っていたのだが、小野寺家を訪ねた日、深雪さんは留守だった。

僕に会いたくなくて留守にしたのではないかと気になったが、果たしてそうなのか僕にはわからない。

思えば僕らが会ったのはたった二度だけで、それも周りの思惑に流されたもので、彼女の気持ちがわかるほど接してはいない。





クリスマスイブの前日、僕は深雪さんに会うために出かけた。

あの控えめな人と上手く話が進むだろうかと心配もあったが、その日の深雪さんは以前会った二回の印象のどちらとも違うものだった。



「おめでとうございます」


「ありがとうございます。あなたにはなんと言えばいいのか……ご迷惑をおかけしました」


「いいえ、こちらこそ父が無理を言いました。私の方こそ田代さんにご迷惑をおかけしました」



互いに謝ることで一応形はついたが、次の言葉が見つからない。

沈黙に耐えられず、のどが乾いてもいないのに水の入ったコップに、二度三度と手が出ていた。

先に話しをはじめたのは深雪さんだった。



「ちいちゃんと田代さんは先輩後輩だったと聞いていたのに、私、どうして……
どうして、ちいちゃんの気持ちに気がついてあげられなかったのか」


「それは深雪さんのせいじゃない」



僕の言葉に深雪さんは静かに首を振った。



「ちいちゃん、私や両親に遠慮して言い出せなかったんです。
私、ちいちゃんのことはわかっているつもりだったのに、ぜんぜんわかってなかったんです」


「二人は仲がいいそうですね。それでもわからないことはありますよ」


「でも、田代さんのことを両親にも私にも、先輩はしっかりした人で間違いない、安心してお付き合いできる方だって勧めてくれて……
ちいちゃん、あのときどんな思いで私たちに言ってくれたんでしょうね」



窓の外へ向けた横顔は千晶によく似ていた。

従姉妹は似ると聞くが、面差しが本当にそっくりだった。