彼女の葛藤を聞きながら、もっと早く気がついてやればよかったと思う一方で、こんなにも僕のことを思ってくれたのかとじわりと喜びもわいていた。



「頼りにしてほしい、何でも言って欲しいと言ってくれましたね。私、田代さんの言葉が支えでした。
ずっとひとりで考えて判断して、なにもかも一人で決めてきたから誰かを頼るなんてことなくて。
父のことでどうにもならなくなって田代さんに電話したら……まさか」


「来るとは思わなかっただろう? 僕も自分の行動に驚いたけどね。
それほど君しか見えてなかったんだろうなぁ。
なんかいま思うと、なりふりかまわずって感じだった。
人を好きになると周りが見えなくなるし、こんなことができるのかって思った」


「いつから私を……」


「好きだったのかって? うーん……不謹慎だって怒られそうだけど、千晶のお母さんのお葬式かな。
参列者に向かって健気に挨拶をしてるのをみて、大杉ってこんなに綺麗だったのかとずっと見とれてた」


「ふふっ……」



急に千晶の肩が揺れはじめた。

口元に手をおいて笑いを堪えているが、こぼれる笑いを抑えきれない。



「なに、何で笑うの? 葬式で見とれたっての、そんなに可笑しいかなぁ」


「私の方が先です。好きになったの」


「うん? 先って、いつ」


「中学の吹部の頃から」  


「えーっ、ウソ……」


「本当です。ずっと見てました、田代先輩のこと」   


「ちょっと待てよ、いったい何年越しだよ、そんなの全然気がつかなかった、もっと早く言ってくれよ」



並べられるだけ言葉を並べてから 「黙ってたな」 と問い詰めると 「だってそんなの言えません」 と、しれっとした顔で言われた。



「それで返事は? まだ聞いてないけど」


「うーん……」


「おい、ここまできてまだ迷うのか」


「はい……これでいいですか?」


「あのなぁ、緊張するじゃないか! 本当にいいんだな? やめたってのはなしだぞ」


「はい、わかってます」


「はぁ、よかった。心配させないでくれよ」


「すみません。そんなに心配しました?」


「したよ。心臓に悪い」


「あら、大変……ふふっ」


「笑うなって」



言い合いながらも和やかな会話が続く。

僕らはやっと素直になれた。