スッキリとしない空は雲に覆われ、夕方の暗さに加え雨雲の灰色が重苦しい。

大杉が心配したとおり、深雪さんとの話は決着がついていない。

深雪さんのお父さんが大乗り気で、おとなしい娘にはあのような男がいいのだと、僕を大層気に入っているそうだ。

ただでさえ憂鬱な天気なのに、小林のおばさんからの気の重い電話があり、僕の気持ちはブルーどころかブラックになっていた。



『脩平君、小野寺さんにしっかりした挨拶をしたらしいわね』


『小野寺さん? あぁ、深雪さんのお父さんか。彼女を送っていったら玄関にお父さんがいたので、ご挨拶が遅くなりました、田代です、深雪さんとお話させていただきましたって、普通に挨拶をしただけだよ』


『そこがほら、しっかりした大人の男だって気に入ったみたいよ。アナタ押しがきくじゃない。そこが良かったのね』


『あのですね、僕は断りたいんです。それなのに、どうしてこうなっちゃうんですか』


『アナタがハッキリ言わないからいけないんでしょう。あっちにも、こっちにも、どっちにもいい顔をするからこうなるのよ』


『そんなこと言われても、彼女を送っていって、お父さんと初めて顔を合わせたんですよ。そこに深雪さんもいるのに、お話はお断りしますって言えないじゃないですか』



僕の立場を説明するが、おばさんは 「だから、その挨拶を気に入られたんじゃない。嫌なら嫌だって顔をしない、アナタの態度がいけないの」 ととりつく島がない。

次は小野寺さんのご両親も一緒に会いたいとおっしゃるんだけど、と言われて、



『親に会ったら、それこそ誤解されます。僕は断りたいんです。おばさん、助けてくださいよ』



と、すがるように情けない懇願をするはめになっていた。



『そこまで言うのなら、仕方ないわね……』


『お願いします。頼みます』



電話に向かって頭を下げながら切々と訴える僕に 『断る口実を探しておくわ』 と、おばさんは約束してくれたが不安が残った。


翌々日、僕に好都合な話が舞い込んできた。

他県の営業所へ、二ヶ月間の長期出張の話が持ち上がったのだ。

ことによってはそのまま残り、転勤の可能性も出てくるということで、ウチの支社から三人派遣するらしく、候補の一人に僕が入っていた。

縁談のこじれをどうしたものかと頭を抱えていた僕は、渡りに船とばかりに、即座に行きますと手を上げた。

おばさんにもすぐに連絡をして、そういうことなので小野寺さん側によろしく伝えて欲しいと重ねて頼み、この件に関しては幕を引いたつもりだった。


二ヶ月も留守にするのだから、深雪さんのお父さんもあきらめてくれるだろう。

出張後、そのまま転勤にでもなれば好都合、小野寺さんは深雪さんを手元におきたいだろうから、僕を諦めてほかの相手を探すだろう。

その頃になれば、大杉の気持ちもほぐれてくるかもしれない。

折を見て、僕に向き合って欲しいと伝えよう。

僕の思うようにことが進みそうで、気持ちも軽やかになっていた。

翌月からの出張に備え、冬支度まで想定した荷物の準備に余念がなかった。