そしてあの日も私はいつものように校内を徘徊してまわっていました。

ここからは旭さんから聞いた話なのですが、当時私はぼーっとしていたせいかよくわからないのですが、美術室の外の窓ガラスからじっと中を見つめていたそうです。教室の中にいた旭さんもさぞびっくりしたことでしょう。
その状態で暫く経っていたのか、旭さんが私に声をかけにきます。
私ははっと我に返って恥ずかしくなりました。何せ相手はあの美人と有名な旭さんでしたから。
私は事情を話して軽い謝罪をし、その場から立ち去ろうとしました。
すると旭さんが私を呼び止めるのです。
「暇なら美術室にいて時間を潰していてもいいのよ」と。

あの田中旭と会話出来たことでさえ嬉しいのに、今度は同じ空間にいることを許されたというだけで私はとても嬉しかったのです。

美術室には旭さん以外誰も居ませんでした。
旭さん曰くその学校の美術部は数年前、人数の関係で廃部になったというのです。
美大へ行きたい旭さんは美術の先生に頼み込み、放課後は一人でデッサンの練習を続けていたというのです。

正直、上の空での会話の内容は今では覚えていません。
只、憧れの先輩と話すことが出来、その日の私は受かれていました。
別れ際の「またいつでも来てね」という言葉に甘えて、その日から放課後へ通うことが私の日課になりました。