ブラザーズ~青い空へ~

『原口くん!俺、4、7、9番は終わったよ。あといけるね?ちゃんと15時便確認して出発させてよ!じゃあよろしくね!俺事務所にいるから!』

『はい!大丈夫です!すいません!ありがとうございます!』

はぁー。疲れた。土曜は量が少ないのにななんで回せねーかな。まあ土曜はリーダーの藤井くんが休みですからね。もう学生のバイトが出勤してきたから大丈夫だろうな。でも充分人数足りてるはずなんですけどね。新現場が始まったら俺なんか頼ってられないんだよ。あー電話か。

『もしもし?高見です!もしもし?もしもーし?』

『もしもし?あ、あのーお兄さんですか?』

『もしもし?想史郎?想史郎なの?どうしたの?お母さんはいないの?お前はどこから電話をかけてるの?』

『う、うん。想史郎だよ。あ、あのね僕は叔父さんの家からかけてる』

『そう。おじさんの家に泊まりに行ってるの?お母さんはまた入院したのか?』

『お母さんはもう死んじゃった。も、もう治らない病気だったんだって。あ、あのだからもうお兄さんが僕ん家に遊びに来てくれてももう誰もいないから言わないといけないと思って。お母さんがお兄さんの携帯の番号を教えてくれてたからかけたの』

『そう。ありがとう想史郎。俺今からお前に会いに行ってもいいか?この番号がおじさん家なんだろ?ナビで探して行くから俺に会ってくれるか想史郎』

『う、うん』

『すぐ行くからね!ちょっと待っててね』

小川さん。どうして言ってくれなかったんですか。そんなに悪かったんですか。ここか?

『すいません。初めまして!こんにちは!高見慶太郎と申します。想史郎の兄です。想史郎に会わせて貰ってもよろしいですか?』

『あぁ。あんたが想史郎の。どうしてここがわかったの?美智子に聞いてた?』

『はい。小川さんはいつ亡くなられたんですか?あのお線香をあげさせてもらってよろしいでしょうか?』

『線香も何も仏壇もないよ。俺が面倒見る義理もないし。葬式やってやっただけでも充分でしょ。実家も誰もいないからね。取り壊されて無くなったよ』

『あの!想史郎はどうなるんですか?おじさんであるあなたが面倒を見てくださるんですか?』

『いや。俺も体の調子が悪いからいつ入院になるかわからないし想史郎は来月施設に預けるよ』

『施設?想史郎はそれでいいと言ってるんですか?』

『いいも何も俺が一生面倒見る義理もないし親がいないんだから施設に行くのは当然だよ。今まで何度も預かって面倒みてやっただけでも感謝してほしいぐらいだね』

『想史郎に会わせてください!お願いします!居るんですよね!』

『いないよ!もう帰ってくれ!来週には施設に連れていく。ちょ、おい!勝手に入るじゃないよ!あんた!』

『想史郎!想史郎!どこだ?お前どうしたの?何でですか?なんで想史郎を縛ってるんすか?あなたは想史郎のおじさんでしょ?想史郎が何か悪い事をしましたか?』

『腹減ったってうるせーからだよ。万引きでもされてみろ。面倒だ。あと数日すればちゃんと面倒見てくれるんだ。俺はこいつと血の繋がりはないしな。それなのに最後の最後までこっちは迷惑かけられたんだよ!』

『想史郎は俺が引き取って育てます。連れて帰りますね。俺の弟ですから』

『なんだよ!だったら最初からお前が面倒見てりゃ良かったんだよ。こっちは迷惑してんのによ!さっさと連れて帰れ!』

『すいません。想史郎がお世話になった御礼はしっかりさせて頂きます。失礼します。想史郎!おいで!抱っこしてあげるから。お前軽いな。ご飯を食べさせて貰えなかったのか?ごめんな想史郎。辛かったね』

『お、お兄さん。ぼ、僕はどうなるの?』

『大丈夫だよ想史郎。もう心配しなくていいよ。お前の家はちゃんとあるんだから。一緒に帰ろう。お腹すいたね。何が食べたい?』

『ハンバーガー!』

『わかった。とりあえずハンバーガー食べよう。はい。車に乗って。想史郎!お母さんは2週間まえは家にいたよね。いつ亡くなったの?』

『え、えっとこの前お兄さんが帰ったあとぐらいに入院してちょっとしてからかな』

『そっか。ごめん。お前にも携帯を持たしておくべきだった。ごめんな想史郎。それからずっとおじさんといたの?』

『うん。あの僕は施設で暮らすんだっておじさんが言ってたけどどうしてお兄さんのとこに行くの?』

『だってお前は俺の大事な弟だよ。お前には兄弟がいるって話したよね。俺達と一緒に住むのは嫌か?』

『い、いやじゃないけど僕は行ってもいいの?』

『いいんだよ!お前ん家なんだよ想史郎!これからはお前が大人になるまで俺が見てるから安心しろ。もう何も心配いらないから。早く食べなさい!お腹すいてたんだろ』

『うん!』

『想史郎!お前荷物はランドセルしかないの?服はどうした?』

『荷物になるからいらないって。施設でくれるっておじさんが言ってた』

『そっか。じゃあハンバーガー食べたらお前の必要な物を買いに行こう。お前の部屋は空いてるんだよ。机やベッドを買って帰ろう。服や靴も買おうね。もう汚れちゃってるじゃないか』

『で、でも僕お金持ってないよ。お金借りてるからお母さんは返さないといけないって言ってた』

『そう。大丈夫だよ。心配しなくていい。お前に必要なものは全て俺が買う。俺はお前の兄貴だからね。じゃあ買いに行こう』

『うん!』

想史郎は何日も同じ服を着せられていたようだった。食事もロクに与えて貰えず2週間前に会った時と比べると随分痩せていた。小川さん!なんで俺に言ってくれなかったんですか?想史郎をおじさんに預けても辛い思いするのがわかっていたんじゃないんですか?俺が振り込んでいたお金では足りなかったんですか?借金があったんですか?言ってくれれば俺が払いますよ。想史郎に辛い思いさせるぐらいならそんなの俺に払わせてくれたら良かったじゃないですか。

『ただいまー!想史郎!おいで!お前の家だよ』

『う、うん』

『おかえりなさーい!慶太郎兄ちゃん!抱っこしてー!』

『龍!ダメ!僕が先!慶太郎兄ちゃん!おかえりなさーい!僕も抱っこ!』

『はいはい!龍!虎!ただいま!いい子にしてた?』

『してたよー!』

『僕もしてたー!誰?』

『想史郎だよ。龍と虎のお兄ちゃんだ。今までお前達と離れて暮らしていたけど今日から一緒に住むからね。お前達のお兄ちゃんだから仲良くしてくれる?』

『いいよー!仲良くする!』

『僕も仲良くする!想史郎兄ちゃんは何年生?』

『4年生だよ。学校の場所教えてあげてね』

『うん!いいよー!』

『慶太郎!おかえり!想ちゃん!おかえり!』

『想史郎!俺の奥さんと赤ちゃんは俺の子で凛太郎って言うんだ。よろしくな。龍と虎は双子でお前の弟だよ。前に話したね』

『う、うん』

『千佳!悠は?拓海は予備校がまだだよね?』

『悠ちゃんはデートだけどもう帰ってくるんじゃない?拓海くんは今日授業が遅くまであるみたい。ご飯は帰って食べるから残しておいてよって』

『そう。とりあえず想史郎を風呂に入れるよ。何日も入ってないみたいだから。新しい服とパジャマを買ってきた。机とベッドはもうちょっとしたら届くと思うよ。無理やり今日中に持ってきてくれって言ったから。新しくランドセルも買った。まだ4年生なのに誰かのお古だったみたいでボロボロだよ。後3年も使えそうにない。悠が6年目なのにそれよりかなりボロかったよ。悠が綺麗に使ってるのかな?』

『そっか。辛かっただろうね。でもこれから癒してあげよう!慶太郎!私も頑張るから!』

『うん。ごめんね千佳。苦労しかかけないね』

『苦労じゃないって言ったでしょ!もう何人増えようが大丈夫だよ!賑やかな方が楽しいじゃない!早くお風呂入れてあげて!荷物届いたら想ちゃんのお部屋に運んでもらうように言うから』

『うん。ごめんね。ありがとう!想史郎!おいで!お風呂入ろう!龍!虎!お前らもおいで!一緒にお風呂入るよ!』

『はーい!』

『はーい!』

『千佳!凛太郎は後で入れるよ!どうせ拓海と入るから。悠は18時過ぎるんじゃないの?携帯鳴らして帰ってこいって言っといてくれる?』

『うん!わかった!』

『ハアハア!ただいま!』

『あっ!悠ちゃん!おかえり!今携帯鳴らそうかと思ったんだよ!』

『すいません。危なかったっす。1分前でした。彼女送って行ったんで遅くなりました。もう慶兄帰ってるんすか?マジ危なかった』

『うん!帰ってるよ!そういう遅れそうな時に限って慶太郎が帰ってきちゃうかも知れないんだから時間気をつけてよ!悠ちゃん!』

『はい!すいません!誰か来てるんすか?』

『想ちゃんだよ!想ちゃんのお母さんが亡くなっててもう少しで施設に連れて行かれそうになるとこだったって慶太郎が連れて帰ってきた。お風呂にも何日も入ってなかったみたいですごく汚れてた。ご飯も食べさせてもらってなかったみたいだよ。今、慶太郎が龍ちゃん達と一緒にお風呂入れてる』

『そうですか。想史郎は一人ぼっちで不安だっただろうな』

『おう!悠!帰ってきたのか。お前の門限は何時だ?』

『18時です。でも過ぎてないっすよ!1分まえだよ!ちょーギリだけど』

『時間を守る気があるみたいだからいいですけど過ぎたらお仕置きだからね。お前わかってる?』

『はい。わかってますよ!だから過ぎてないじゃん!』

『想史郎!こいつが悠之心。お前の兄貴だ。6年生でちょっと反抗期だしクールだから怖いかも知れないけどお前を守ってくれる頼りになる兄貴だよ』

『よう!想史郎!やっと会えたな。お前の事は慶兄から聞いてたよ。おかえり!想史郎!』

『た、ただいま』

『想兄!ゲームしよう!こっちだよー!リビングにテレビゲームがあるよー!』

『虎!ゲームはあとにして!もうご飯の時間になるから!わかったの?』

『なんで!ご飯の時間まだだよー!』

『しなくていい!あと5分だろ。もうお姉ちゃん用意してくれてるの!ダイニングに行って座ってなさい!わかんないんだったらお尻叩こうか?』

『い、いやだー!座る!』

『想史郎!おいで!ご飯食べよう。ハンバーガー食べちゃったから食べられるだけでもいいから食べよう。お前にはいっぱい食べてほしい!』

『うん!』

『うわ?なに?びっくした。急に抱きしめないでよ』

『ありがとう悠!想史郎をよろしくな』

『うん!だって俺の弟でしょう。俺が守るよ。なんかいじめられそうな感じだから。兄貴として当然じゃん。慶兄の出番なんかねーよ。俺で充分守れる』

『あぁー。お前は俺の自慢の弟だからな』

想史郎!お前は1人ぼっちじゃないよ。お前には兄弟がいるんだ。これからお前はこの家で大人になって巣立っていってくれ。それまで俺に守らせてくれよな。こんな中途半端な時期に転校か。キツイな。ゴールデンウィーク前に参ったね。手続きもあるしな。俺が養子にしたらいいのか?親父。あんたが親だろ。これで兄弟は全員揃ったのかな。まだいるのか?どうなんだよ親父。