ブラザーズ~青い空へ~

『みんな準備できたか?そろそろ行くよ!虎!黒いジャケットはどうしたの?お姉ちゃんが出してくれてたんでしょ?』

『あるよー!暑いから脱いだ!』

『着てて!お寺の中と外はまだ寒いんだからな!』

『持って行けばいいじゃん!慶太郎兄ちゃん!持って!』

『持たない!自分で持ちなさい!拓海!お前もまたグズグズして早くしなさい!』

『わかってるよ!待って!まだ髪が決まらない!おう!悠!お前もワックスぬって髪立たせてやろうか?』

『はい!お願いします!おーヤバイ!かっけー』

『ほら!お前ホストやれそうじゃん!まあでも大変だから慶太郎にーちゃんは嫌がるな!俺にだってやめさせて拾ってくれたぐらい大変だからねー!悠は将来何になりたいの?』

『わからないです。全然何も考えてないです。俺は拓海兄みたいに勉強出来るわけじゃないし』

『まあいいんじゃね?勉強できりゃーいいってもんじゃないし!俺だって魁聖行っててホストに転んだぐらい人生なんか思い通りにさせようと思ったら相当な努力がいるんだよ。慶太郎にーちゃんは俺なんかよりいや誰よりも努力してきたと思う。まだ悠は6年生だろ。これからだよ!はい!完璧!ちょーかっこいいぞ!悠!』

『ありがとうございます。拓海兄。中学受験て難しいんですか?慶兄も魁聖行ってたんでしょ?』

『ちょー難関だよ!みんな遅くても3年生ぐらいから塾行くんじゃね?俺は幼稚園から塾行ってたけど。慶太郎にーちゃんもたぶんそれぐらいやらされてたと思うよ』

『そうなんですか。俺らなんてずっと遊んでるし1時間の家庭教師で宿題やってるぐらいじゃ全然無理ですね』

『別に中学受験しなくても高校はほぼみんな受験するんだからそこに目標合わせればいいんじゃね?』

『そうですね』

お母さん。今日はお母さんの1周忌って言う法事らしいです。あれから1年なんだね。桜が咲き始めています。お母さんは龍と虎の入学式を楽しみにしていたよね。新しいスーツも買ってもうすぐ入学式ってところでお母さんは事故に会って俺達の前から突然いなくなっちゃった。俺始業式が始まればもう6年生だよ。背も伸びたでしょ。龍と虎も学校に慣れて友達もいっぱいいるみたいだよ。あの日買い物に行ったお母さんの帰りを俺と龍、虎の3人でずっと待っていたんだよ。おやつは美味しいケーキを買ってきてくれるって言ってたから何も食べずにずっと待ってた。お母さんは夕方を過ぎても帰ってこなくて携帯鳴らしても繋がらないし俺はだんだん不安になってきていたよ。だってそんな事は1度もなかったじゃん。俺が学校から帰ってくる時には絶対に家にいたし買い物に行っても夕方までには帰ってきてた。あの日はいつまで待っても帰ってこなくてお腹がすいたって言う龍と虎をコンビニに連れて行ってお菓子を買って帰ってきたら慶兄が車から降りてきて俺達に車に乗るよう言ってきたんだ。どうして?どこへ行くの?って聞いても慶兄は黙ったままだったな。着いたのは病院でそこには慎兄もいて俺はなんとなくお母さんに何かがあったんだと言う事を察知していたよ。でもいざ眠っているようなお母さんを見ると俺は怖くなって震えていた。そしたら後ろから慶兄が抱きしめてくれて泣いてもいいんだよって言ってくれたんだ。その言葉を聞いて俺は慶兄に抱きしめられながらわんわん泣いた。俺につられたかのように龍と虎もわんわん泣き始めて慎兄が龍と虎を抱っこしてくれていたよ。俺は慶兄に抱っこされて長い間泣いていたように思う。それからはなんかよくわからない。俺達は泣き疲れて寝てしまったんだ。気づけばお母さんの葬式の準備が進んでいてお父さんはいつ帰ってくるんだろうって思ってた。慶兄が龍と虎の入学式にお母さんがあっちでスーツを着れるようにってお母さんと一緒にお棺に入れたスーツと共に煙になって空へ上がって消えていくお母さんを龍は慎兄に抱っこされ虎は慶兄に抱っこされながら俺は慶兄にしっかりと手を握られて見送ったんだ。慶兄がお母さんはお前達をこれからは空からずっと見てるからお母さんを心配させないようにしようなって言ってくれた。俺達が煙が見えなくなった青い空をずっと眺めていたのをお母さんは見ていた?俺は慶兄に強く手を握られながら心配しなくていいよ。俺がお前らをちゃんと育てる。お母さんに今約束したからねって言ってくれて俺はお母さんにさようならって言えたんだ。桜の季節はなんだか切ないけどでも俺達は本当に慶兄が育ててくれてるし少しは大きくなったでしょ?お母さん!今日も空は大きく青いです。俺達は大丈夫だよ。だって慶兄がいるからね。お母さん!俺達に兄貴を与えてくれてありがとうございます。

『悠!お母さんに線香をあげなさい』

『うん!なに?』

『お前を抱きしめたいだけだよ。お母さんは心配してた?』

『ううん。心配してないよ!だって俺達には兄貴達がいるから。ほら!空があんなに青いじゃん!』

『そうだな。悠之心!これからも青い空へちゃんと伝えていこうな。お母さんが心配しないように』

『うん!俺ずっと伝えていくよ!』

お母さん!慶兄はいつもあったかいです。慶兄はどうしてあんなにあったく俺を抱きしめてくれるんだろう?俺が慶兄に愛されてるからでしょ?お母さんの1周忌の法要が終わりお墓に参って俺達はまたしばらく空を眺めていた。龍は慎兄に抱っこされ虎は拓海兄にだっこされ俺は慶兄に肩車されて空に手を伸ばしてみた。お母さん!俺の手は届いていますか?俺達家族が増えたんだよ。千佳さんに抱っこされているのが凛太郎。まだ赤ちゃんでかわいいでしょ。慶兄の息子だけど俺は龍や虎と同じように弟として凛太郎も守っていけるような兄貴になりたいです。お母さん!俺がどんなふうに成長していくか泣いたり笑ったり怒ったりしながら青い空からちゃんと見ててね。

『さあ帰ろう!帰ったら着替えてボーリング行くんだろ?』

『うん!』

『慎二郎!虎が危ない!捕まえろ!』

『はい!了解っす!』

悠之心!お前は愛されていたんだよな。お母さんは悠の誕生日をちゃんとお祝いしてくれていただろ。お前が愛された想い出をちゃんと胸にしまって成長していけよ。俺が見てるからな。