ブラザーズ~青い空へ~

おー今月は力也がナンバーワンか。詩音はとうとう抜かれちゃったね。お前が手を抜いた接客をしてるからだよ。わかってるかな?自分で考えないとね。

『高見さん!お仕事中すいません。時間ですので僕はこれで失礼します。また明日お伺いさせて頂きます』

『あーはい。すいません!お世話になりました。ありがとうございました。また明日よろしくお願いします!』

『いってぇー!あ、ありがとうございましたー!尻叩かないでよ!もう手でも痛い!』

『叩かれなくてもしっかり挨拶はしなさいよ!礼儀と挨拶ぐらいはまともに出来るようになってくれ!拓海くん!わかってる?』

『わかってるよ!してるじゃん!』

『マシになっただけで言われなきゃ出来ない事だってあるレベルじゃねーか!本当にお前はよく魁聖受かったね!』

『俺、頭いいからねー!天才だったりして』

『頭いいなら言われた事は1回で出来るようになろうね!』

『社長!お先に失礼します!』

『あーはい!中井さん!お疲れ!』

『よし!拓海!片付けて!帰るよ!』

『うん!』

また持って帰る仕事がいっぱいだ。あー参ったね。店に行く日以外は拓海が17時に終わるから俺も帰らないといけない。現場が忙しい時には拓海を送ってまた現場にとんぼ帰りも度々ですよ。今日はもう木曜で現場は落ち着いたからいいんですけどデスクワークは全然片付いてないんですよね。まあチビ達もいるし帰って仕事するしかないな。

『拓海!俺ちょっと寄らなきゃいけないところあるから車の中で待っててくれる?』

『うん!わかった!ゲームしてる』

『じゃあちょっと待っててくれよ』

俺は13歳の夏休みだった8月4日。街で出逢った3人の女の子に声をかけられた。夕方過ぎまでカラオケを楽しみ1人の女の子は帰り飯を食ってもう1人の女の子も帰ってしまい俺と残った彼女2人となった。彼女が滝は癒されるんだとか言っていたように思う。正直あんまり覚えていない。俺は出逢った3人の女の子の名前も知らないまま遊び彼女の希望で滝を目指し電車に乗ろうと駅に向かって歩いている時にキーのついた中型のバイクが目に止まった。この時の俺は街で知りあった先輩にバイクの乗り方を教わっていてある程度は乗れるようになっていたんだ。軽い気持ちでバイクで行く?って聞くと行きたいと答えた彼女を乗せバイクを走らせた。1時間ぐらいは何事もなく走らせていたと思う。突然現れたパトカーに追われ焦った俺はアクセルをふかしパトカーから逃げ切ろうと飛ばした。神社があり森のような場所付近で遂に追い込まれバイクは転倒し俺達は投げ飛ばされたんだろう。ここからはもう曖昧な記憶だけど俺が倒れている近くに彼女の姿はなく森のような木が沢山ある場所に警察の1人が向かって行くのを見たから彼女は俺より遠くへ投げ飛ばされたのがわかった。その後は救急車が来たり警察が慌ただしく問いかけてきたりで俺が彼女の姿を見る事は1度もなかった。俺は足を骨折し多少の切り傷程度でたいしたことはなく生きてしまっていた。治療が終わり警察から彼女は頭を木にぶつけ亡くなった事を告げられた俺はそこで初めて彼女の名前を聞いた。佐藤あかねさん。俺と同じ13歳。尊い命を俺が奪った日だ。佐藤あかねさん!俺だけが生きていて本当にすみません。

『慶太郎にーちゃん!慶太郎にーちゃん!』

『あー!なんだよ。車で待ってろって言っただろ!』

『ここで誰が死んだの?』

『お前には関係ない。行くぞ!拓海!』

『佐藤あかね?』

『なんでお前が知ってるんだよ!』

『俺が幼稚園の頃からの受験戦争仲間だった奴のお姉ちゃんだよ。佐藤海斗は俺が魁聖中学から高校辞めるまで同級生だった。幼稚園の頃から塾が一緒だったんだ。小学校の時お姉ちゃんが事故で死んだって塾をさぼって一緒にここに来たよ。慶太郎にーちゃんが哀しい顔をする理由はこれ?』

『俺が彼女の命を奪ったんだ。俺が死ねばよかったのに俺は生き残ってしまった。お前の同級生のお姉ちゃんだったのか。俺みたいなクズになるなよ拓海。俺は一生背負っていかなきゃいけない許されない事をしたんだ』

『クズなんかじゃねーじゃん!海斗のお姉ちゃんは死にたがってたんだよ!何度も自殺しようとしてたって海斗が言ってた!だから!・・・』

『黙れ!拓海!そんな事は理由にならねーんだよ!俺が尊い命を奪った事に変わりはない!もう何も言わなくていいよ。言葉でどうにかなるものじゃないんだ。ごめんな拓海。誰にも言わないでくれ。この事を誰も知らないんだ。千佳やもちろん悠達も。お前を連れて来るんじゃなかったな。悪かった。お前にまで苦しい思いさせてしまうね。お前の不安をとってやるどころか傷つけたな。本当に悪かった。泣くな。ごめん拓海』

『っく、うっく、俺は傷ついて泣いてるんじゃない!っく、ズルイよ!うっく、かっこつけんなよ!っく、ひ、1人で苦しんできたんでしょ!っく、慶太郎にーちゃんの苦しみが伝わるから俺は泣いてるんだ!っく、もう、充分苦しんだんでしょ!っく海斗はうっく、海斗はお姉ちゃんやっと楽になれたって言ってた。うっく、親も家で死なれるより良かったって言ってたんだよ!っく!なのになんで慶太郎にーちゃんだけが苦しまなきゃいけないの!そんなのおかしいよ!っく』

『拓海!それでも人の命を奪った事は許されないんだよ。俺はいいんだ。それだけの事をしたんだから。こんな事ぐらいで許されないし許されるべき事じゃない。心配してくれてありがとう拓海。でも何があっても人が人の命を奪っていいなんて事は絶対にないんだ。どの命も重いんだよ。覚えててくれ。拓海はわかるよ。お前ならわかるようになる。帰ろう拓海!』

『っく、うっく、うん!っく』

なんなんだよ。こんな運命もあんのかよ。拓海の同級生のお姉ちゃんか。これも罰かな。拓海を傷つけてしまったよ。俺はもっと苦しめって事だな。壮ちゃん!俺の反省がまだ足りないから拓海と運命の出逢いをしたのかな?こんな俺が拓海を救えるの?俺に苦しみが足りないんだよね?反省が足りてないって言われてるみたいだよ。ごめんなさい。拓海まで苦しめてしまう。壮ちゃん!どうすればいいの?俺が死んだって許されないんでしょ?俺が死んで誰かが助かるなら俺はとっくに死んでるよ。生きて苦しむことが償いだって児童相談所の人に言われた。俺が苦しまないと償いにはならない。そう思って生きてきた。拓海を助けてよ。俺はどうでもいいから拓海を守ってよ。佐藤あかねさん。俺が生かされてる間あなたの事を忘れる事はありません。本当に申し訳ありませんでした。もっともっとこれからも反省していきます。

『慶太郎にーちゃん!俺甘えてた。俺なんかただの甘えだよ!俺、医学部行く。俺ん家は親父が医者で開業医。出来のいい兄貴がいて俺はいつもダメで跡継ぎは1人いればいいし俺なんかいらねーんだろって思ってた。別に跡継ぎになりたいんじゃなくて医者になりたい!心理学を学びたい!そしたら慶太郎にーちゃんの痛みを少しは理解してあげられるようになるかも知れないでしょ?俺予備校通う!』

『拓海!俺の為に生きなくていいんだよ。自分のやりたい事をやりなさい!』

『バカじゃねーの!俺の道だよ!自分で見つけたんだ!小さい頃の夢は医者だった。親父みたいな医者になるって思ってたけど親父みたいな医者にはなりたくない!自分の子供の気持ちすら理解しようとしない医者なんかになりたくもねーって思って俺は道を見失ったけど人の気持ちがわかる医者になりたい。そしたら海斗のお姉ちゃんみたいな人達も救ってあげられるかも知れない。だから俺が俺の為に生きる道だよ!俺、慶太郎にーちゃんに出逢えてよかった。海斗のお姉ちゃんがきっと出逢わせてくれたんだ。俺を使ってもう苦しまないでって言ってるんだよ!』

『そう。ありがとう拓海。自分の道を真っ直ぐ進めよ。もう迷子になるな』

『うん!』

拓海!ありがとう。でも俺はもっともっと反省しなきゃいけないんだ。お前が進む道を見つけてくれたんだったら俺はそれだけで嬉しいよ。壮ちゃん!俺はこれからももっと反省を続けていきます。許される事のない反省を俺は死ぬまで続けていくから俺の大切な者達が苦しまないようにどうか見守っていてください。