ブラザーズ~青い空へ~

暑い!とりあえず現場は落ち着いた。疲れたー。汗だくだよ。シャワー浴びたい。チビ達も夏休みに入っちゃったし毎日千佳も大変だろうな。まあ週1回の土曜はユズルが朝から波乗りに連れて行ってくれてるけど土曜ぐらいしか千佳もゆっくり出来ないよね。ついでに拓海もついて行ってるし。平日は俺についてくる。2階の会議室を使って勉強してくれたらいいのに俺の部屋がいいってわがまま言うもんだから先生もやりにくいだろう。俺だって気を遣うよ。電話はなるべく席を外したりタバコも吸えなくなった。いちお社長室で俺が社長なんですけどね。まあさすが魁聖合格組だけはあって拓海の集中力は認める。やらせるまでに時間がかかるけど。俺の部屋のソファーだからちょっと気が抜けやすいんだよな。だから会議室を使えって言ったのに。わかりやすいところがあいつの扱いやすいところなんだけど先生に対する態度が最近よくないね。昨日注意したばかりなんですけどまた泣かせないといけないかな。俺が仕事で抜けてるとダメみたいだね。先生をなめてきてるよな明らかに。怒らない先生だもんね。

『コラ!拓海!なんだその態度は?お前は教えてもらう立場だろ!昨日も注意したよな!痛い目に合わないとわかんないか?事務所でもお仕置きはするって言っただろ!こっち来い!先生!ちょっと待ってもらっていいですかね?』

『あーはい』

『い、嫌だ!違う!眠くなったんだよ!』

『そんな言い訳が通用すると思ってんのか?じゃあ目を覚ますんだな!ほら!ソファーに手をつけ!事務所には木刀でお仕置きだって言ったし先生の前でもジーンズはおろすって言ったよな!お前はわかったって言ったんだよ。昨日はせっかく大目に見てやったのにね!早くジーンズをおろせ!』

『嫌だ!ごめんなさい!もうしない!うわっ!嫌だ!やめて!いやだー!いったぁー!痛い!痛い!っつ、いってー!いや!痛い!ご、ごめんなさい!痛い!っぐぅ、痛いよーっく、うっく、ちゃんとする!ヒック、いたー、痛い!っく、うっく、痛い、ひっく』

『はい!終わりだ。たった20発だぞ!次また同じ事やったら50発は覚悟しとけよ!ソファーだとだらけてしまうから2階の会議室を使いなさいって言ったのにお前がどうしても俺の部屋がいいって言うから仕方なくさせてるんだよ!ソファーだと気が抜けてしまうだったら会議室でやれ!そこならちゃんとした机も椅子もあるだろ!集中できないんだったら2階でやるか?』

『っく、い、嫌だ、っく、うっく』

『はぁー。じゃあちゃんと座ってやりなさい!お前は教えてもらう立場だよ!だらけた座り方をするな!わかったのか!』

『うっく、は、はい。っく』

『いつまでも泣いてたら勉強出来ないぞ!もうすぐお昼休憩だ。拓海!頑張りなさい!』

『っく、う、うん。っく』

『先生!もう一度同じとこから説明してやってください!拓海!ほら!ジーンズあげて!いつまで先生にパンツ見せるんだ?』

『はい!わかりました!拓海くん!もうちょっとだから頑張ろうね!』

まあ20発でも充分痛いだろうね。まだ起きられなくて朝も2日置きぐらいにお仕置き食らってるんだからな。毎日じゃないのが進歩か?いつになったら予備校に行ってくれるんだ?お前の子守りをしながら俺は仕事をしなきゃいけないんだよ。何が不安なんだよ拓海。さあ俺もデスクワークしないとな。あーまた店の給料計算もやらなきゃいけねーじゃん。10月に3店舗目もオープンしたらさらに仕事増えるぞ。事務員を俺の事務所で雇おう。大輔が店で雇うのを嫌がるからもうしょうがねー。中井さんの隣のデスクはあいてるよな?店の給料計算なんてめんどくせーんだよ。請求書の支払いとか銀行にも行ってもらいたいしね。中井さんに店の事務までを頼むのは仕事の量が多過ぎるからさすがに悪いし問題は俺が教えなきゃいけないのが痛いんだよな。俺が付きっきりで仕事を教えられないんですよね。教えてくれる人もいない。やっぱもっと時間がないと無理か?

『高見さん!お昼になりましたので休憩を取らせて頂きます!』

『あーはい。時間ですね。じゃあ午後からもまたよろしくお願いします』

『はい!失礼します』

『中井さん!お茶入れてくれる?俺飯食うから!』

『はい!すぐ入れます!』

『拓海!ご飯食べるよ!はい!お前のお弁当!』

『うん!』

『失礼します!社長!お茶どうぞ!はい!拓海くんもどうぞ!』

『あーありがとう!中井さん!』

『ありがとうございまーす!』

『拓海!お前はいったい何がそんなに不安なんだよ?勉強する環境は俺の部屋じゃない方がいいしむしろ事務所に来るより予備校に通う方がお前にとっていいんだよ。お前もわかってるだろ?』

『俺だってわかんない!何が不安なのかが俺にもわからないから不安なんだよ!俺はここがいいの!慶太郎にーちゃんの部屋じゃなきゃ出来ない!慶太郎にーちゃんがいなくてもここなら慶太郎にーちゃんの香水の匂いがするじゃん!』

『そうか。ごめん。拓海!俺が悪かった。おいで!俺が焦ってるんだな。ごめんな』

『慶太郎にーちゃんが抱きしめてくれるとなんであったけーの?』

『夏だからな!』

『そういうあったけーじゃねーよ!』

『わかってるよ!バカ!冗談だ。俺は汗だくになったから汗くさいはずなんだけどね』

『香水の匂いがする。慶太郎にーちゃんの匂いだ!俺忘れない』

『拓海!ジュースは買ってこないのか?もうすぐ昼休憩が終わるからまた先生くるよ!』

『うん!買ってくる!お金ちょーだい!』

『はい!行っといで!』

はぁー。困った子だね。まだまだ時間はかかるか。まだひと月しかお前と時間を過ごしてやれてないもんな。お前の不安を俺は取ってやれるかな?取ってやらないとね。お前を迷子にさせるわけにはいかない。俺ももっと頑張るよ。だからお前も自分の道をちゃんと歩め。高卒認定は問題ないんだから進みたい学部を見つけてくれないとな。拓海!お前の夢はなんだ?思い出してみろ。小さい頃に抱いた夢にヒントはないか?お前が進む道を決めるのはお前自身なんだよ。俺は道を大きく外さないように見守ってやるしか出来ないんだからね。あー。今日はあの日か。すいませんでした。謝って許される事だとは思っていません。俺はどうしたらいいですか?あなたも本当なら俺と同じ22歳になってる年です。あなたは何をしていたんでしょうね?大学に通っていたかも知れないし結婚して子供を生んで母親になっていたかも知れないですね。俺だけ生きていてすいません。

『慶太郎にーちゃん?慶太郎にーちゃん!ってば!』

『あっ!ごめん。なんだよ?』

『お釣り!どうしたの?考え事?』

『あぁ。うん。ちょっとやらなきゃいけない仕事がいっぱいあるんだよ。ほら!もうすぐ先生来るよ!ちゃんと準備して!』

『うん!わかった!』

『失礼します!ではまた始めさせて頂きます!』

『はい!よろしくお願いします!拓海!挨拶は!』

『よろしくお願いしまーす!』

慶太郎にーちゃん!どうしてそんな哀しい顔してんだよ。そんな顔見るの俺二回目だ。慶太郎にーちゃんの22年間っていったい何があったんだよ?

『中井さん!俺、2階の休憩室でタバコ吸ってくるよ。子供が勉強中だからね』

『はい!わかりました』

『おう!お疲れ!君達は飯ですか?』

『はい!お疲れ様です!社長!珍しいっすね!2階に上がってくるなんて』

『そうだね。俺が上がってくる時はシャワー浴びるか会議するかぐらいだもんね。ところで涼太くん!君は挨拶がないね。先輩の後藤くんの姿を見て覚えていかなきゃダメでしょ』

『は、はい!お疲れっす!』

『お疲れ!お前は挨拶は出来てたんだけどビビって挨拶するのも忘れたか?なんでビビらなきゃいけないんだろうね?俺はお前が遅刻してきた初日に事務所の事を説明して向かいの現場に連れて行ったよな。現場では後藤くんに仕事を教えてもらいなさいって任せたけど事務所で休憩室を案内してる時に言った言葉があるよね。お前は覚えてる?遅刻してきたお前も了承済みなんだけど』

『は、はい!覚えてます!』

『よかった。じゃあ話しは早いな。そこはロッカーに頭ぶつけたら危ないからこっち来いよ!』

『は、はい!』

『しっかり噛み締めとけよ!』

『っぐぅ、いってぇーっうぅ』

『未成年の分際でタバコなんか吸ってんじゃねーよ!俺に見つかった場合は1発覚悟しとけって言ったよな。あの時俺はあまり上がってくる事はないって言ったけどこれからはちょくちょく上がってくるかも知れないぞ!俺の部屋でガキが勉強中だからタバコが吸えなくなっちゃったんだよ!だから気をつけろよ!数が増えてくると顔ばっか殴ってられないからお前も尻叩くぞ。とりあえず俺はこれから上がってくる事が多くなると思うって事は言っとくからね!お前は家を出る為に働いてるんじゃねーの?タバコを買う為に働いてんのか?』

『違います!すいませんでした!』

『涼太!俺はまだ手加減してるからね』

『はい!』

『はい。じゃあ君達ゆっくり休憩取ってくださいね!俺は下におりて仕事してくるよ』

『はい!お疲れ様です!』

『お、お疲れっす!』

『涼太!大丈夫か?お前もういっそのことタバコなんか辞めたら?社長はマジだぞ!お前二十歳になるまで3年もあるんだろ?ぜってーまた見つかるぞ!俺二十歳で良かった』

『そんなこと言われたってなかなか辞めれるもんじゃないっすよ。みんな吸ってるじゃないっすか!俺、今日の運勢悪かったっけ?マジびびった!』

『運勢なんか関係あるかよ!早く飯食えよ!休憩なくなるぞ!』

『はい!了解っす!いってー』

涼太はまあ休憩室案内した時に吸ってますって言ってたからな。タバコの不始末があると困るからね。いつか殴る日が来ると思ったけど意外と早かったっすね。俺が上がってくる事なんかあいつの勤務時間帯ならシャワーぐらいだから確率的には低いからな。まあ応接室でもタバコは吸えるんですけどね。ちょっと脅しとかないとな。あー今日拓海どうしよ?俺はあの場所に花を供えに行かないと。壮ちゃん!あれから9年です。俺は3年続けて人の死と向き合わされました。その答えはまだわかっていません。最初の死は見せつけられ二回目は俺が奪った。そして三回目は壮ちゃんを奪われた。人間って簡単に死んじゃうのにどうして俺は生きてるんだろうね。わからないよ。壮ちゃん。生と死が隣り合わせである事はわかってきたけど俺が生きる理由はまだわからない。生かされる理由はなんですか?罰の為に生きるのかな?俺が答えを見つけられず出来が悪いから答えがわかるまで俺は生かされるんだろうか。