『お前、がばがば飲むだろう?
同じ通り沿いに安い居酒屋が出来たから、そこでいいよ』と。



結局、40分も遅刻してスーツ姿で店に現れた尚哉は、奈緒子の顔を見て、悪りぃ、と言った次の瞬間、顔をしかめた。


「なんだよ。もうジョッキ3杯目かよ?ピッチ早すぎるって〜」


テーブルを挟んで向かいに座り、ネクタイを緩めながら言う。


居酒屋の兄ちゃんが空いたジョッキを下げるのを忘れた為に、テーブルの上には、歴然とした証拠が残っていた。


(人を待たせておいて、
そんなこと開口一番言う…?)


一瞬、奈緒子はムッとするが、すぐにそれは正論だと気付く。


「ビールなら、大丈夫なの。
ヤバイのは日本酒とウイスキーだから。ちゃんぽんしなけりゃいいの」


奈緒子は、ジョッキの取っ手に手を掛けたまま、にっこりと微笑む 。


二週間前、社員旅行で行った草津温泉のホテルで、尚哉には、ピンチを救ってもらった。


きちんとお礼を言わなくてならない。

その為に今夜、一席設けたのだ。