警察沙汰になったら、恵也は退学になってしまうかもしれない…

内心、奈緒子は怪我よりもそちらの方が心配だった。





恵也は、たまに地元の暴走集会に顔を出す事があった。


「ねえ、奈緒子も行ってみたい!
連れて行ってよ〜」


奈緒子は恵也の腕を揺らしてせがんだ。

若気の至りで、そういうがカッコ良く見えた。


「結構、あぶねえから、
女連れて行きたくねえんだよね。
パクられるかもしんねえし」


恵也は、奈緒子を連れて行くことにあまり乗り気ではなかったけれど、
「夏休み集会」に連れて行ってくれた。



夏の夜。

恵也の紫のフルフェイスのヘルメットを借りて、恵也の愛車パープー号の後ろに跨った。


改造マフラーを付けたバイクが撒き散らす唸るような轟音。

併走するシャコタンから鳴り響く大音量のカーステの音楽。


夜の闇に煌めく赤いテールランプ。


初めは、お祭りみたいで楽しかった。

パープー号には、何度も乗ってる。
でも、こんな風に集団で走るのは、初めててものすごくドキドキした。

恵也の背中にぴったりと張り付いて、スピード感を楽しんでいた。


が、しばらくして。


ウ〜……という追ってくるパトカーのサイレンを聴いた途端、奈緒子は人生最大にびびってしまった。

「きゃあ!恵也!警察!」

思い切り、悲鳴のように叫んだ。

パトカーとの距離が縮まり、パトライトのチカチカする赤い光を背に受けると、恵也は叫んだ。


「奈緒子!しっかり掴まれ!」


そして、次の瞬間、奈緒子の身体は、ぐわんっと大きく傾く。


奈緒子は口から心臓が飛び出しそうになった。悲鳴もあげられない。


恵也は気が狂ったのかと思うくらい、とんでもない蛇行運転を始めた。


バイクの方に注意を向けさせて、警察が先輩達の乗るセダンを追わないようにするためだ。