「…あいしてる?」

奈緒子が言うと、

「ピンポン!」

恵也は弾けるように言って、奈緒子の
身体をきつく抱きしめた。


「奈緒子も!恵也愛してる!」

大音量の音楽に負けないように奈緒子は恵也の耳元で叫ぶ。


恵也の身体に廻した両腕に力を込め、
二人は人目も憚らず、キスを交わした。


柑橘系のキス。
バイクで来ているから、恵也はさっきオレンジジュースを飲んでいた。


恵也とならずっとキスしていたい、と思う。


唇を離した後、恵也は奈緒子の耳元で何かを囁く。


なあに?と奈緒子は恵也の肩に頬をちょこんとつけて訊く。


「…奈緒子、俺、おしっこしたくなっちゃった。トイレ行ってくる。」


「やだあ、ムードぶち壊し!」


奈緒子は笑って、恵也の肩を軽く叩く。


恵也は頭を掻く仕草をして、笑いながら言う。

「ここで待ってろ。
ナンパされんじゃねーぞ。」


振り向きながら、右手の人差し指で床を指したあと、人を掻き分けて、フロアの奥へ行ってしまった。

一人になってしまった奈緒子は、大音量の音楽が鳴り響く中、手持ち無沙汰につっ立っていた。


まるで迷子になったような気分になって心細くなる。


恵也はなかなか戻って来ない。