奈緒子にはジャニス・ジョプリンもキース・へリングも誰か分からなかった。


恵也は、ジャニスは、昔のロック歌手で、キースはアーティストだよ、と教えてくれた。

好きだというわりには、恵也が部屋で聴く音楽といえば、女の子アイドルグループのきゃんきゃんした歌ばかりだった。



「吸う?」

恵也は奈緒子に吸いさしのメンソールを差し出す。


奈緒子の両親は煙草を吸わない。
奈緒子も煙草の臭いを毛嫌いしていた。


断ることも出来たけれど、恵也が口をつけた場所を拒否なんか出来なかった。


「うん。吸ってみたい」


軽く吸えよ、の恵也の言葉通りににすると、口の中にすっとメンソールの風味が広がる。


「えっ何これ!美味しい!」

奈緒子ははしゃいだ。

直に吸うのと、副流煙は違うと知る。


恵也に分けてもらったそれをパールピンクのシガレットケースにいれ、奈緒子も吸うようになった。


どこかのおばさんの月とすっぽんは言い過ぎだけれど、弟の尚哉と比べると、兄の恵也はそれほど良い男というわけではなかった。

背もあまり高くない。

体格は骨太な感じだけれど、男にしては小柄だった。


それでも、恵也には、女を惹きつける何かがあった。